●ばんざい、もしくはハの字で論より実践、とにかく浮いてみよう
「浮いて待て」の姿勢は次の通りだ。
まず、靴という浮力体がない場合は、背浮きをしたら腕をばんざいの形に水面に伸ばし、バランスをとるといい。下半身が沈むので骨盤からおへそ周りを上につきだし、頭を背中側にそらせよう。大地から空を見上げるイメージだ。下半身と頭頂から額にかけては水面に沈むかもしれないが、勇気を出して、ゆっくりとほんの少しだけ顎を空に向けると、肝心の鼻と口は水面上に浮く。
また靴を履いている場合は下半身が浮くので、背浮きのまま手足から力を抜いてみよう。身体が安定すれば、どんな姿勢でもかまわないが、たとえば、腕を脇から離して「ハの字」に広げるといいかもしれない。手のひらは下に向けて水を押さえるようにすると、さらにバランスが取りやすい。
斎藤会長は「とにかく力を抜いて、水のベッドの上にあおむけになる気持ちで浮く。これがすべてです。なぜ浮くのか、なんて理屈はどうでもいい話であって、命が助かればいいのですから」と強調する。
●助けられる側と助ける側 互いの知識が生還率を上げる
水難は自然に対する人間の無力さを痛感させられる事故だ。
「人は数秒もかからず、あっという間に溺れます。よく陸から手を差し伸べて助けようとする話を聞きますが、そんな暇はありません。しかし、助けられる側が冷静に背浮きさえしてくれれば、救助のやりようはいくらでもあるのです」
従来、水難救助活動は「救助する側」の訓練に力を入れてきたが、それだけでは限界がある。
「今後は救助される側も『浮いて待て』の知識と実技を身につけ、同時に救助する側も浮いている間に救い上げる方法を学ぶ必要があります。救助する側とされる側、この両輪がそろってはじめて生還がかなうのですから」
ところが、子どもたちがせっかく背浮きをしていても、「浮いて待て」の知識を持たない大人が慌てて飛び込み、2次災害に遭遇するという現実がある。残された子どもは、一生、罪悪感に苦しめられるだろう。