日本と韓国の関係悪化が叫ばれて久しい。
私は2015年9月から19年3月まで、2度目のソウル勤務に従事したが、悪化の原因が無責任な政治にあることを実感させられた3年半だった。
日本の安倍政権と韓国の朴槿恵(パククネ)政権は15年12月、日韓慰安婦合意を結び、関係改善に向けて舵を切ったはずだった。
だが、朴政権を巡る不正腐敗が16年秋に公然化すると、韓国の政治家たちは一斉に、朴槿恵叩きに走った。それは、朴槿恵前大統領の業績を全て否定する作業であり、その象徴が慰安婦合意の破棄だった。
韓国の人々にとって、公の場で日本の立場に理解を示したり、助けたりする言動を取ることはとても難しい。「日帝36年」と言われる時代に被害を受けた人々への配慮がそうさせるのだ。元慰安婦の多数は日韓慰安婦合意を喜んだが、合意に反対する元慰安婦や支援団体が反対の論陣を張ると、他を圧倒した。
18年に急浮上した徴用工訴訟問題もその一つだった。日本企業に対し、元徴用工らへの損害賠償を命じた韓国大法院(最高裁)判決は、徴用工問題も想定したうえで1965年に締結した日韓請求権協定を覆すものだったと言われても仕方がないものだ。
でも、文在寅(ムンジェイン)政権の解釈は違った。「日帝時代の被害者への配慮」に加え、朴槿恵政権が大法院判決を遅らせるよう、司法介入していた問題が浮上したからだ。文政権は19年5月段階で、徴用工訴訟問題に関与する姿勢をみせていない。
政治とは本来、市民の厳しい批判を浴びようとも、市民の利益になる仕事を追求すべきだと筆者は思う。韓国政府の知人に、この考えを話すと、「退任してから評価されるのが本当の政治家。現役の間に称賛を受けようとする政治家にろくな奴はいない」と答えてくれた。
文在寅氏は、この言葉をよくかみしめるべきだろう。元徴用工も元慰安婦も韓国人だ。特定の人を救うため、請求権協定を否定すれば、日韓経済協力の基礎が損なわれ、元徴用工も元慰安婦も含む韓国人全体に被害が及ぶ。
別の韓国政府関係者はこうも語った。「朴槿恵政権を倒したロウソクの灯集会は、権力を壟断(ろうだん)した行為への批判だった。文在寅政権は、それを進歩(革新)勢力への免罪符だと誤解している」。対日批判も含め、政権運営を「朴槿恵政権の否定」という視点で行うべきではないだろう。