一方、日本側には落ち度が全くないと言えるだろうか。
安倍晋三首相にとって、日韓慰安婦合意は、自分の支持勢力を説得してこぎ着けた立派な政治的業績だったと思う。
ただ、安倍氏は最後まで、自分の口から、「安倍内閣総理大臣は、日本国の内閣総理大臣として改めて、慰安婦として数多の苦痛を経験され、心身にわたり癒やしがたい傷を負われた全ての方々に対し、心からおわびと反省の気持ちを表明する」という合意文を語らなかった。
文在寅氏の対日政策に数多くの問題があることは論をまたないが、だからこそ、安倍氏が日韓首脳会談を開き、文氏を説得する必要がありはしないか。
日本も韓国も高齢化社会を迎え、社会は不安と不満に満ちている。それが隣国に対する不満の表明という形として現れてもいる。関係悪化を招いた原因をたどり、韓国が抱えている多くの問題を幅広く知ることで、読者の一人ひとりが、関係改善への道筋を探って欲しい。
そんな思いで『ルポ「断絶」の日韓』を書いた。題名を日韓としたのは、日本にも韓国にも問題を一方的に押しつけてはならないという思いを込めた。
この本では、徴用工訴訟や慰安婦財団解散問題、韓国軍駆逐艦によるレーダー照射問題などで、日韓両当局が水面下でどんな動きを見せたのかを検証した。
さらに、90歳近くになった今でも、息子が経営する大衆食堂で働く老女や、ニューヨークの国連本部で演説した防弾少年団(BTS)も登場する。
かつて外務省で「朝鮮半島問題の第一人者」と言われた町田貢元駐韓公使とともに振り返った李承晩(イスンマン)時代から現代に至る日韓関係の歴史的な事件も盛り込んだ。
いずれも、今の短い期間だけを生きる私たちだけではわからないこと、韓国には日韓関係とは関係なく生きている人たちがいることも、読者の皆様に知っていただきたいと考えたからだ。
日本人も韓国人も、自分の国を主人公にしてモノを考えがちだ。この本を手にとっていただき、お互いを相対化して見てみる契機にしていただけたら、とてもうれしい。