かつての帝国ホテルがフランク・ロイド・ライトによる名建築であったことは知られているが、その完成に到るまでをドラマティックに描いたこの長編小説は、往年のホテルの姿を生き生きと想像させてくれる。
ライトに設計を依頼したのは当時のホテル支配人の林愛作だった。アメリカ留学したのち、古美術商を経て支配人に抜擢された林は、たしかな審美眼から、新館を建てるにあたりライトの設計による低層ホテルを構想する。
頑固なライトと職人との対立、予算をめぐる経営陣との攻防、度重なる火災と大地震……さまざまな困難を全力で乗り越えたプロフェッショナル達の姿に胸が熱くなる。ホテルの取り壊しの際に愛知県の明治村に移築された経緯も書かれているが、明治村ではホテルの玄関部分を今でも見ることができる。(石原さくら)
※週刊朝日 2019年6月14日号