柳川電停付近で東山線から清輝橋線に分岐する「おかでんチャギントン」。実はこの写真、電車が手前に走ってくるのではなく、走り去る後追い撮影である。その理由は、走ってくるシーンでは、運転席の目玉のブラインドが開けられ、愛らしさが半減してしまうから。鉄道写真で後追いはあまり好まれないが、ことチャギントンでは後追いのほうがいい。ちなみに撮影は、後追いのほうがむずかしい ■オリンパスOM-D E-M1 MarkII・7~14ミリF2.8・絞りf5・ISO200・AE・-0.3補正・JPEGスーパーファイン
柳川電停付近で東山線から清輝橋線に分岐する「おかでんチャギントン」。実はこの写真、電車が手前に走ってくるのではなく、走り去る後追い撮影である。その理由は、走ってくるシーンでは、運転席の目玉のブラインドが開けられ、愛らしさが半減してしまうから。鉄道写真で後追いはあまり好まれないが、ことチャギントンでは後追いのほうがいい。ちなみに撮影は、後追いのほうがむずかしい ■オリンパスOM-D E-M1 MarkII・7~14ミリF2.8・絞りf5・ISO200・AE・-0.3補正・JPEGスーパーファイン
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 去る3月16日(土)は、年に一度のJRダイヤ改正の日。今回は、「のぞみ」と「はやぶさ」がスピードアップし、おおさか東線の新大阪─鴫野間が新規開業した。一方、西武鉄道でも26年ぶりの新型特急「ラビュー」が登場した。出発式が行われたのは、おおさか東線と、西武鉄道だったが、私が向かったのは岡山だった。「おかでん」こと岡山電気軌道でもこの日、新型路面電車「チャギントン」が運行を開始し、出発式が行われる情報を得たからだ。

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 かくして3月16日(土)、品川駅を6時に発車する「のぞみ99号」で岡山駅に9時4分に到着する。東京駅6時発の「のぞみ1号」でも岡山まで3時間9分だ。昔の「ひかり号」が東京─新大阪間3時間10分だったことを思うと速くなったなと思う。

 岡山の駅前広場に出ると、おかでんの乗り場に白髪の紳士の姿が見えた。工業デザイナーの水戸岡鋭治さんだ。後を追いかけたかったが、「報道関係者はここでお待ちください」と制止された。と、そのとき、「チャギントン」がやってきた。すぐに写真を撮りたかったが、岡山駅前広場とおかでんの乗り場とは、少なからず離れている。「ああ!」と、言っているうちに水戸岡さんは「チャギントン」の中に消え、発車していった。釣り落とした魚ではないが、撮り逃した電車は大きい! そこで私はタクシーに飛び乗って、おかでんの終点、東山まで先回りすることにした。そこで「チャギントン」を迎え撃つ作戦に出たのだ。やがて、赤い「ウィルソン」を先頭に、青い「ブルースター」を従えて「チャギントン」は祝賀会場に到着した。

桃太郎大通りを堂々と走る「おかでんチャギントン」。左ページの写真と同様に後追い撮影である。赤い車両は「ウィルソン」、青い車両は「ブルースター」だが、水戸岡さんにどちらがお好みか尋ねたところ、「う~ん、ウィルソンかなあ? 赤いから」。一方、おかでんの小嶋光信社長は「最初はウィルソンだったけど、ブルースターもいいねえ。青に黄色できりっとしている」とのこと。両者とも愛情あふれるコメントである ■オリンパスOM-D E-M1 MarkII・40~150ミリF2.8+TC1.4・絞りf8・ISO800・AE・-0.7補正・JPEGスーパーファイン
桃太郎大通りを堂々と走る「おかでんチャギントン」。左ページの写真と同様に後追い撮影である。赤い車両は「ウィルソン」、青い車両は「ブルースター」だが、水戸岡さんにどちらがお好みか尋ねたところ、「う~ん、ウィルソンかなあ? 赤いから」。一方、おかでんの小嶋光信社長は「最初はウィルソンだったけど、ブルースターもいいねえ。青に黄色できりっとしている」とのこと。両者とも愛情あふれるコメントである ■オリンパスOM-D E-M1 MarkII・40~150ミリF2.8+TC1.4・絞りf8・ISO800・AE・-0.7補正・JPEGスーパーファイン

「チャギントン」とは、世界中で放映されているイギリスの人気鉄道アニメで、そのメインキャラクターがウィルソンとブルースターなのである。これまで、このアニメを見たことはなかったが、なんて可愛いのだろう。なんて楽しいのだろう。電車を見て、これほど純粋に心が躍ったことはいまだかつてなかったのではないだろうか。

 それもそのはず。実物からアニメが生まれることはあるが、アニメから実車が生まれたのは、世界初のこと。水戸岡さんは、おかでんからの依頼に、当初、「絶対できません!」と断ったそうだが、「できちゃいましたね」と、照れていた。これで、岡山を走る水戸岡デザインの電車は、「KURO」「MOMO」「たま電車」「チャギントン」の4種類になった。楽しい電車が走る岡山は、水戸岡鋭治さんの故郷なのだ。

ブルースター側から見た車内。実はアニメのチャギントンは外観のみで、内部はまったく描写されていない。そこで、水戸岡鋭治デザイナー、思案した末、ウィルソンとブルースターの外観からすべて創作した結果がこちらとなった
ブルースター側から見た車内。実はアニメのチャギントンは外観のみで、内部はまったく描写されていない。そこで、水戸岡鋭治デザイナー、思案した末、ウィルソンとブルースターの外観からすべて創作した結果がこちらとなった

写真・文=櫻井 寛

アサヒカメラ2019年5月号より抜粋

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