
ケイコ(岸井ゆきの)はプロボクサー。下町の小さなボクシングジムで鍛錬を重ね、アルバイトをしながらリングに立つ。生まれつき両耳が聞こえない彼女をジムの会長(三浦友和)らは静かに見守り、育てているが──。連載「シネマ×SDGs」の32回目は、元プロボクサー・小笠原恵子さんをモデルにし世界の映画祭で絶賛された「ケイコ 目を澄ませて」の三宅唱監督に話を聞いた。
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小笠原恵子さんの著作を読んで、その人柄に魅力を感じ、映画にしたいと思いました。ボクシングについて何も知らなかったので、ケイコ役の岸井さんと一緒に撮影前に3カ月ほどジムでトレーニングをしました。やる前はパンチを喰らうことに恐怖を感じていましたが、実際にやってみると相手にパンチを当てることも同じくらい怖いことなのだとわかった。ボクシングとは相手に正面から対峙し、相手を信頼することで始まるスポーツなんです。同時に手話を学び、ろうの方々を取材するなかで、手話もまた同じように相手に対して怖がらずに自分の体と心を開かなければ成立しない言語だと知りました。自分も感覚を研ぎ澄まし、目の前のことに率直にカメラを向けよう。そんな思いで撮りました。
