行動力と人とのつながりを大切にする気持ち。それが記録的豪雨から住民を守ることにつながった(撮影/工藤隆太郎)
行動力と人とのつながりを大切にする気持ち。それが記録的豪雨から住民を守ることにつながった(撮影/工藤隆太郎)
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 2017年7月の秋田豪雨では、各地で河川の氾濫が起きて家屋などに大きな被害が出たが、犠牲者はゼロ。その陰で、和田幸一郎が市町村長と連絡を取り続け、刻一刻と変わる雨の見通しを伝えていた功績があった。豪雨災害が全国で増えるなか、命を守るために必要なこととは何か。(文/桐島瞬)

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 例年になく東北地方の梅雨入りが遅かった2017年。入梅から2週間が経った7月中旬、秋田地方気象台の和田幸一郎(61)は、地元自治体と連携した初の災害情報提供訓練を行っていた。

 秋田県北部に、数十年に一度の降雨量となることが予測される大雨特別警報が発表されたとの想定。和田は、スマートフォンのテレビ電話越しにこう呼び掛けた。

「重大な危険が差し迫った異常事態です。最大級の警戒をお願いします」

 画面の向こう側にいるのは仙北市、羽後町、藤里町の市長と町長。自らの町に危機が迫っていると分かり、緊張した面持ちで「避難勧告を直ちに避難指示に切り替えます」と答えた。

 気象台からの助言を聞くのは、通常なら役所の防災担当者。だが、この訓練に参加していたのは市町のトップ。それは和田が、重大な自然災害が発生しそうなケースでは市町村長の携帯電話へ直接かけて情報の伝達を行う「ホットライン」を築いていたからだ。羽後町長の安藤豊は「首長は気象台からの情報を必要としている。ホットラインはとても重要なシステム」と話す。

 首長と台長とが電話番号を交換する取り組みは、地方の気象台から自然発生的に生まれたものだ。だが、今では極めて重要なものと位置付けられている。

 大雨のときなどに発表される避難情報は「避難準備・高齢者等避難開始」から始まり「避難勧告」、最も緊急性の高い「避難指示(緊急)」へと続く。これらは住民の安全避難のために市町村長が地域を指定して発令するが、気象の専門家ではない自治体の長が適切なタイミングで住民避難を決断するのは難しい。その結果、避難指示が遅れ、被害を拡大してしまったことが、全国各地の豪雨災害でたびたび問題となってきた。

●町民が犠牲になった過去 後悔生かし防災に取り組む

 そこで、気象台の責任者である気象台長と自治体の長とを直接つなぐホットラインが有効となる。東日本大震災を踏まえた13年の災害対策基本法の改正では、市町村長が住民の避難指示を発令するためのアドバイスを気象台に求めた場合、応答する義務も課した。

 気象庁はホットラインを築くために、地方気象台長が市町村訪問をすることを05年頃から推奨し始め、最近では訪問記録も確認する。こうした努力が実り、今では電話番号の交換率はほぼ100%近い。和田の携帯電話にも、県内すべての首長の番号が保存されている。だが特筆すべきは、番号の交換だけで終わらず、首長たちと顔の見える関係を築いたことだ。

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