自民党の萩生田光一政調会長が与党の党三役として19年ぶりに台湾を訪問したことが話題になった。同氏は、「台湾有事は、日本有事であり、日米同盟の有事であるという安倍晋三元首相の言葉の正しさを、中国自身が行動によって証明した」と発言した。今年8月にペロシ米下院議長が台湾を訪問した時に、中国が台湾周辺で大規模な軍事演習を行い、日本のEEZ(排他的経済水域)内にミサイルを着弾させるという強硬措置に出たことを指したものだ。
あの時の中国は日本の国民に言い知れぬ恐怖感を与えた。自公政権は、こうした国民の不安感に乗じて、反撃能力とか継戦能力と称して様々な戦争準備を進めている。
だが、この議論には危険な飛躍がある。本来は、台湾有事は本当に起きるのかという議論が先にあり、それが起きそうだという場合でも、次に考えるべきは、どうやって日本が台湾有事に巻き込まれるのを避けるかということだ。「台湾有事=日本有事」と断定し、戦争ありきで議論が進む現状は常軌を逸している。
その異常さを再認識させられる出来事があった。韓国政府の高官X氏に「日本には米中の間でバランスをとりながら戦争を回避する外交などは出来ない」と断言された時のことだ。
X氏の論旨はこうだ。
「韓国と北朝鮮は一体で、中国と長い国境線を有する。古来中国との間で戦いが繰り返され、属国になった時代もある。対中関係の安定こそが、我々の外交の最優先課題だ。一方、日本は元寇の時以外中国に攻撃されたことはないし、占領されたこともない。太平洋戦争に負けたが、占領したのは米国だった。その後、日本は米国に頼るしかなく、今日に至った。米国は日本を信頼しているが、韓国のことは本当には信頼していない。逆に、だからこそ、韓国は米国に対して時に厳しい対応ができる。米国は、韓国はそういう国だと理解しているから裏切られたとは感じない。韓国は米韓関係はそういうものだと割り切って外交を組み立てる。一方、日本は米国に無条件で忠誠を誓って来た。今さらその信頼を裏切ることは出来ず、米国が戦う時は日本は逃げられない。戦争回避の外交が不可能というのはそういう意味だ」