実験に協力してくれたネコたち(高木さん提供)
実験に協力してくれたネコたち(高木さん提供)

「予測したことと違うことが起きると、普通より長く見つめてしまう動物の習性を使って調べる、心理学の“期待違反法”という実験方法を使いました。この習性によって、ネコは音から鉄球の有無を推測していたことがわかります」

 高木さんが「ネコは音から物体の存在を推測できる」という結論を導き出したこの研究はドイツの学術雑誌に紹介され、京都大学総長賞も受賞している。

 その後も「ネコも思い出を持っている」「飼い主の存在を認知している」など、ネコの認知能力に関する新たな発見をしてきた。今年春には、京都大学の研究チームとともに「同居しているほかのネコの名前から顔を予測する」という論文を科学誌に発表した。

 実験には、3匹以上のネコを飼っている家庭のネコたちに参加してもらった。ネコを座らせ、同居する別のネコの名前を呼ぶ声を流した後、モニターに写真を映して反応を調べた。すると、名前と一致しない顔の写真を見せたとき、長い時間、画面を注視する傾向があった。これは、ネコがともに生活するネコの名前を認識している結果だという。

「人の話を聞いていないように見えますが、実はネコはちゃんと聞いているんです。この研究もそうですが、着想はすべて素朴な疑問から生まれたものです」

 高木さんがいま興味を持っているのは、飼いネコと飼い主の関係が密になったことで生じる変化についてだ。

「きっかけは、野生のギンギツネがわずか数十年で家畜化したというロシアの研究です。人を恐れない個体を繁殖させていくと、数世代後には人に甘えたり尻尾を振ったりする“イヌ化”が見られたという研究です。ネコにもこうしたことが起きているのでは、と感じることがあります」

■仲良くなるには無駄に動かない

 家畜化することを「イヌ化」と表現するのはギンギツネ同様、人とイヌの長い歴史の中で、オオカミが家畜化してイヌになったと言われているから。ネコをめぐる環境にもその傾向がある。

次のページ