レイコさん自身、小中高とバスケットで全国大会に出場したが暴力とは無縁だった。子どものスポーツにこのような課題が潜んでいるとはつゆほども思わなかった。自分たちのような被害者を出さないようにと「少年スポーツと部活動の在り方を語る会」を約3年前に立ち上げた。神奈川、沖縄など全国の保護者とSNSでつながった。

「他の被害者と話をすると、少年スポーツや部活動の指導が原因で学校すら通えない子どもがいると知った。指導者のパワハラは仕方ないことだと思っている人もまだいます。以前は声を上げてもかき消されてしまう状態だったが、今はそうではない。(解決する)方法はあるのだと知ってほしい」

 2012年に大阪の市立高校で男子バスケットボール部員が、顧問による暴力やパワハラが原因で自死した。この12月23日で10年になる。筆者はこの事件のルポを著して以来、スポーツ指導の問題を追ってきた。数年前は、相談を持ち掛けてはくれるものの相談窓口や弁護士につなげようとすると「顧問に処分が下ったら、こちらのせいにされて学校に行けなくなるかもしれない」「周囲に責められる」と諦める保護者がほとんどだった。だが近頃は、前述した家庭のように声を上げる親子が増えてきた。親は「子どもに監督の悪口なんて聞かせられない」と話していたが、今は子ども自身が自主的に話してくる。

■暴言も含めた調査必要

 背景には、スポーツ指導の暴力やパワハラに対し人々が敏感になってきたことに加え、相談機関の増加がある。日本スポーツ協会は13年から「スポーツにおける暴力行為等相談窓口」を設置。近年は相談対応者を増やすなどして課題解決に努めてきた。今夏からは子ども自身がアクセスできる「子どもたちのための暴力行為等相談窓口」を開設。11件の相談が舞い込んだ。内訳は暴言が半数で、暴力、パワハラ、セクハラと続く。

 レイコさんが頼ったNPOのような民間の被害者救済の動きも活発だ。日本スポーツマンシップコーチング普及コミュニティ代表で、22年に「スポーツにおける暴力・パワハラの相談窓口」を開設した宮下裕至さんは「親御さんたちは非常に粘り強く学校やクラブに働きかけている」と話す。自身が経営する体操クラブでパワハラが見つかった反省もあって、弁護士ら有志とともに活動に乗り出した。舞い込む相談のほとんどが殴る蹴るといった暴力ではなく、暴言や無視などのパワハラだという。

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