「手」が主人公の写真に見入ってしまった。料理家と写真家が3年かけて全国各地を訪ね、握ってくださいとお願いし、おむすびにまつわる記憶や仕事、家族のことなどを聞いたインタビュー集だ。

 長野県松本市にある醤油醸造店の主人は「味は心で五味調和」と語る。照れくさそうに握ったのは、意外とこぶりだ。ごはんを茶碗に入れ、上下にゆすりながら冷まし、形を整える「母譲り」の作り方は鎌倉の服と雑貨の店の店主。「お母さんのおむすび」といえば化粧品の香りがしていた、と話すのは六本木のギャラリーのオーナー。嫌だったのではなく、上京して初めて食べたコンビニのおむすびに「味気なくてがっかりした」と話す。

 具もそれぞれ。「作り方」とともに、一人ひとりの人生をもう少し聞いていたいと思わせる。

週刊朝日  2018年10月26日号