「10年かかったけれど、やっと普通に眠れるようになりました。私のような大人が二度と出てこないようスポーツの体質改善を図ってほしい」(リカさん)

 東日本に住む30代のレミさんは、高校のバスケットボール部で、外部指導員である監督の暴言に悩まされた。

「気持ち悪い」「不細工だ」「ブス!」と容姿について言われることが多かった。勇気を出して抵抗したら「おまえのバスケット人生をつぶしてやる!」とすごまれた。進学の邪魔をするという意味だった。

 ほかの教員の手を借りて無事に大学進学したある日、後輩から「助けてほしい」と電話があった。

「毎日のように監督に体を求められる。頭がおかしくなりそう」と泣きじゃくった。合宿時に部屋に呼び出されたのが始まりだった。以来、体育館での練習中に体育教官室などで襲われた。嫌でたまらないが「誰かに話したら、おまえの人生をつぶす」と脅されていた。

「警察に行くか、親に言うか、学校の先生に助けを求めて」と伝えた。その後、他の部員からも被害が学校側に伝えられ、監督はクビになった。

「何ら罰せられず(元監督が)のうのうと生きていると思うと、悶々(もんもん)とする。どこかで遭遇するのではないかと不安もある」(レミさん)

 2人の女性が話したように、10代のころの経験はその後の人生にも大きな影を落とすのだ。

 18年に千葉県で起きた市立柏高校吹奏楽部員自死事件の遺族代理人でもある弁護士の児玉勇二さんは「10年前の大阪の自死事件を皮切りに、類似した案件で第三者委員会が設けられることが一般化した。文科省の部活動ガイドラインもできるなど総合的な流れも含めて、社会問題化したことは大きい」と言う。しかし、1980~90年代にも体罰禁止の声が大きくなった時期がありながら徹底されなかった黒歴史がある。相談窓口などで手当てをしたとしても、意識が伴わなければ繰り返すのだ。

「何よりも大事なのは世論を、人々の意識を変えていくことです」(児玉さん)

(スポーツライター・島沢優子)

AERA 2022年12月26日号