人目を避け、日中は図書館で過ごして閉館後に公園のテントに戻る日々。家族と決別し、人知れずあがいていた。

 自立のきっかけは、生活困窮者の生活再建を応援する情報誌『ビッグイシュー』の販売員を始めたことだった。

「金山駅の入り口で足掛け3年半ほど続けてお金を貯め、ようやくアパートを借りられました」

 アルバイトで始めた障害児童たちのデイサービスを通じて「ベルフェア」を知り、同店の立ち上げに参画したのだ。

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 開店後、2年も続いた売り上げ低迷。風向きが変わったのは、地元情報誌に紹介されてからだ。

 NPO法人ベルフェア・伊藤啓子代表理事が言う。

「『激安食堂』をテーマにした記事で客足が伸び、3年目くらいから、ようやく黒字が常態化するようになりました。地域の子供たちや家庭を応援する、コミュニティースペースでありたい、といった本来の趣旨が紹介されていなかったのが残念でしたけどね」

 だが、それもつかの間、18年に区役所の建て替え移転が決まった。閉店を視野に入れざるを得なくなり、20年1月末からはコロナ禍で大きな逆風にも見舞われた。

「客数は大幅に伸びたのですが、子育て中のスタッフは子供たちの休校で家事が増えて来られなくなり、高齢スタッフは感染を恐れて出勤できない。運営に支障をきたすようになったのです。追い打ちをかける事件も起きました」(佐藤さん)

 20年3月中旬の夜、有志が「運営の役に立てれば」と寄付してくれた善意が入った募金箱が盗まれたのだ。

「5万円ほどあったと思います。『よりによって、なぜウチなの?』と、本当にガックリしました」

 こう話しながら、「でもね」と佐藤さんは続けた。

「手口が荒く、素人っぽかったんです。犯人はよほど切羽詰まっていたのかもしれないし……」

手作りのおにぎり
手作りのおにぎり

 緊急事態宣言が出た4月から1カ月休業。収入は途絶え、持ち出しばかり増えた。ただ、悪いことばかりではなかった。6月1日には店の郵便受けに宛名のない茶封筒が入っていた。丁寧な文字で「お役に立てたら 嬉しく思います」とあった。なんと、中に10万円が入っており、同封された手紙にはこう記されていた。

「このような時こそ貴店の存在が必要です。特別定額給付金は、貴店に寄付します。そうすれば、私自身が貴店を通して、多くの方々の役に立てる気がします。お体に気を付けて頑張ってください」

 誰が贈ってくれたのか、今でもわからない。しかし、同店の存在意義は確かに伝わっていた。

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