とはいえ、22年になると、2月のロシアによるウクライナ侵攻や急激な円安に伴う物価高が、経営に大きなダメージを与え始めた。

「食材は1割から2割、調味料が2割強、揚げ物用のサラダ油に至っては3倍も値上がりしてしまい、光熱費も急増。わずかな利益を吹き飛ばしてしまいました」

 自転車操業ですよ、と自嘲気味に佐藤さん。それでも同店のサポーターが食材を提供し、運営資金を集めるドネーションパーティーに大勢の人たちが参加。「50円おにぎり食堂」は歩みを止めることがなかった。

 そんな苦労の末に迎えた営業最終日だった。

    ◇

 この日の最初のお客さんは、杖をついた70代後半のおじいちゃんだった。ドアを開けたのは午前10時2分。開店の1時間も前だ。それでも佐藤さんは「どうぞどうぞ」と笑顔で招き入れた。

 オーダーしたのは、おにぎり二つとだし巻き卵、肉じゃが、そして赤だしみそ汁の計250円。店内でサクッと食べ、名残惜しそうに帰っていった。

 その後もパラパラとお客さんがやってくる。どうやら、開店時間はあってないようなもので、準備さえできていれば利用できるのが定着しているようだ。

 11時。公式の開店時間だ。どっとお客さんが来店し、密を避けるため店頭に行列ができ始めた。この時点でスタッフは7人に増えており、それぞれの持ち場で大忙し。おにぎりを作る手さばきも速くなる。総菜コーナーに積み上げられただし巻きは補充しても補充してもすぐになくなり、肉じゃが、おから、大学芋、カウンターのおでんもどんどん売れていく。

 店頭の行列は最長十人ほどで、小1時間続いた。

「4年ほど前から週に2、3回は利用しています。総菜が特においしいんでね。今日が最後なのはとても残念です」

「50円おにぎり食堂」のメンバーたち
「50円おにぎり食堂」のメンバーたち

 こう話すのは、70代のおばあちゃん。4歳年上の「連れ合い」の分を含めて、この日はおにぎり6個と総菜を8個買っていった。

 3歳ぐらいの女児を抱いた母親も、こう言って惜しんだ

「でき立て、手作りのご飯や総菜を50円で提供してくれる店がなくなるのは本当に困ります。区役所の建て替えでしょうがないとはいえ、これまでウチの家計をたくさん助けてくれました」

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