「50円おにぎり食堂」
「50円おにぎり食堂」
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 JR名古屋駅から西へ約800メートル。中村区役所の一角に激安で知られる食堂があった。

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「ふれあいキッチン べるえぽっく」は、手作りのおにぎりをはじめ20種類ほどの総菜がほぼ全品50円(税込み)。なので、ついた愛称は「50円おにぎり食堂」。地元だけでなく、遠方から自転車でやってくるリピーターもいた。それが2022年12月2日、区役所の建て替え移転に伴い、閉店した。最後の1日を追った。

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 朝9時。営業開始2時間前の厨房は、「ヒデさん」こと店長の佐藤秀一さん(54)ら、スタッフ3人が仕込みの真っ最中だった。

「今朝はいつもより30分ほど早い6時ごろに出勤しました。ここ2週間ほど、日に日にお客さんが増え、以前に比べると5割ほど多く作っているのですが、それでも営業終了前にはほとんど完売してしまいす。本当、うれしい悲鳴です」

 佐藤さんはこう話しながら、一番人気の「だし巻き卵」を作る手を休めようとしなかった。前日は、だし巻き卵だけで500人前が売れ、おにぎり用に炊いたお米は12升(約18キロ)にもなった。「ここ1週間くらい、3台ある炊飯器はずっと休みなし」という。

1個50円のおにぎりとみそ汁
1個50円のおにぎりとみそ汁

 だが、この日も炊飯器のスイッチを入れたのは9時すぎ。炊き立てのアツアツを提供したいというこだわりである。

「最終日の気持ち? んー……、まだ実感が湧かないというか、最後のお客さんがお帰りになるまで何事もなく、ずっと笑顔でいたいと思っています」

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「50円おにぎり食堂」が産声を上げたのは2016年8月。もともと交番だった場所をNPO法人「ベルフェア」が借りて格安レストランを運営していた。一時的な休業を経て、リニューアルオープンした。 

「当初は、生活困窮家庭やシングル家庭の子供を対象にした《こども食堂》をイメージしました。『家庭のご負担をなるべく減らしたい』と各種おにぎりを50円で提供したのです。すると、区役所へ来た独居老人や障害をお持ちの方ものぞいていくようになり、『総菜があったらいいのに』『煮物はないの?』『カボチャも食べたい』と。そんな声に応えていくうちに今のスタイルになりました」

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