おにぎり2個に総菜一品、みそ汁の計4品でも200円。家賃は月2万円だが、当初は知名度の低さから来客も少なく、2年ほどは赤字になる月も珍しくなかった。
「赤字分は僕の貯金を取り崩して(店を)回していました。それは店長としての責任感もあったけど、当時、話題になった『貧困たたき』に対する怒りが背中を押したんです」
「貧困たたき」とは、16年8月、NHKのニュースで、神奈川県主催の「かながわ子どもの貧困対策会議」に出席した母子家庭の女子高生が紹介されたのに端を発する。番組では彼女がパソコンを買う余裕がなく、キーボードだけでタイピングの練習をしていること、進学を断念せざるを得ないことなどが報じられた。
「映像の背景に映り込んだアニメグッズや画材が高額ではないかと指摘されました。彼女が過去にSNSにアップした映画や舞台鑑賞、ランチの写真をみて、『貧困はNHKの捏造』と決めつけられて大炎上しました。通学先や自宅などの個人情報がさらされ、ネットに中傷の嵐が吹き荒れたのです」(大手ニュースサイト編集者)。
それに加担したのが自民党の国会議員だった。
片山さつき氏はツイッターで《拝見した限り自宅の暮らし向きはつましい御様子ではありましたが、チケットやグッズ、ランチ節約すれば中古のパソコンは十分買えるでしょうからあれっと思い方も当然いらっしゃるでしょう。経済的理由で進学できないなら奨学金等各種政策で支援可能!》(原文ママ)と綴った。杉田水脈氏も産経新聞のコラムで女子高生を揶揄するような話題を書いた。
佐藤さんは、そんな風潮が許せなかったのだ。
「生まれ育った環境による貧困は、子供にとっては避けられないじゃないですか。僕の信条は、弱者からの視線を忘れない、差別は許さない。それで、どんなに大変でもこの店を続けなくては、と決心したわけです」。
こう考えるに至ったのは、30代の時に経験した約5年間の路上生活によるところが大きい。
「大学を卒業後、28歳まで食品販売に携わっていたのですが、待遇に問題のある会社で、繁忙期は1カ月無休の時もありました。やむなく退職したものの、思うように転職できなかった。それで社会に対して疎外感を持ち、10年ほどの引きこもり生活を送った揚げ句、ホームレスになったのです」