どこか冷笑的に人を見る癖のある主人公・田端楓は、大学入学後に女子学生・秋好寿乃と出会う。授業での発言で堂々と理想論を振りかざす秋好にぎょっとしつつも、次第に仲良くなる二人。やがて彼らは「モアイ」というサークルを結成することとなる。

 話は3年後に飛ぶ。就職活動を終えた楓は、巨大な就活団体と化し、当初の理想を見失ったモアイと対峙する。楓の心には今はいない秋好の存在が影を落としていた……。

 中盤では現モアイへの潜入捜査など、緊迫感をじっくりと見せつつ、後半では楓の、これまでの自分に対する葛藤が描かれる。葛藤の果ての「答え」にあったのは、他者を受容することへの真摯な姿勢だった。『君の膵臓をたべたい』の著者の新作は、恋愛を軸に一人の青年の成長をじっくりと描く好篇だ。

週刊朝日  2018年6月15日号

[AERA最新号はこちら]