日本でiPhoneが発売されたのは10年前の7月だった。前年、スティーブ・ジョブズが「電話を再発明する」といったとき、世の中がこんなに変わると予想できた人はどれほどいただろう。
トーマス・フリードマンの『遅刻してくれて、ありがとう』は、この10年で何が変わったのか、これから何が起こりつつあるのかを考える本である。著者はニューヨーク・タイムズのコラムニストで、『レクサスとオリーブの木』や『フラット化する世界』などで知られる。
奇妙な書名は、遅刻してくる相手を待つ間に人類の来し方行く末を考える、というような意味。忙しい現代人は、そんな機会でもなければ考えるということをしない。
著者は現代を「加速の時代」と呼ぶ。本書の前半で詳述されるテクノロジーの変化には驚くばかりだ。コンピュータやインターネットを駆使すれば個人でも地球規模の活動が行えるようになった。
だがいいことばかりではない。「加速の時代」には気候変動も激化した。中東やアフリカなどの政情不安をもたらし、難民問題として欧米社会にも深刻な影響を与えている。人びとはSNSによってかえって分断され、憎悪と対立を深めている。
著者はミネソタ州のミネアポリス郊外、セントルイスパークで生まれた。幼なじみには映画監督のコーエン兄弟や政治哲学者のマイケル・サンデルがいる。彼らを育んだコミュニティの思い出は、さまざまな困難を解決するヒントを与えてくれる。
これから10年後、日本は、そして世界は、よくなっているだろうか。それとも……。
※週刊朝日 2018年6月15日号
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