●直通と着席の両立あの手この手の試み

 直通運転のメリットを生かしつつ、デメリットをカバーする方法もいくつか登場している。ひとつは座席指定列車も直通運転させることで着席需要に応える方法で、小田急電鉄の地下鉄千代田線直通「ロマンスカーMSE」や、西武鉄道の地下鉄有楽町線直通座席指定列車「Sトレイン」などが代表例である。

 また西武鉄道の「だぶるーと」や東武鉄道の「二東流」は、朝は有楽町線・副都心線直通電車で乗り換えなしで通勤し、夜は池袋駅から座って帰宅したいというニーズに応えた特殊な2区間定期券である。こうしたフレキシブルな定期券の設定も広がりつつある。

 そして今後広がりそうなのが戦略的な始発駅設定だ。小田急電鉄は複々線化工事完了に伴う2018年3月のダイヤ改正で、多摩線に多摩センター駅始発列車、江ノ島線に藤沢駅始発列車を多数設定した。あえて途中駅からの始発列車を設けることで、競合する京王やJRから少しでも利用者を奪い取ろうという試みである。

 筆者は会社員時代に柴又と新鎌ヶ谷に住んでいたことがある。勤務地が上野だったので、京成上野駅から一本で帰宅できる駅を中心に家を探していたからだ。10年まで京成本線から金町線に直通する列車が設定されていたが、京成スカイアクセス線が開業すると金町線直通列車は廃止され、その代わり北総線経由の「アクセス特急」が走るようになった。これを追いかけて転居したのである。

 少しでも快適な通勤を実現するために、住まい選びの際は往復の通勤シミュレーションと、鉄道各社の営業施策を見越した検討がカギとなるだろう。(枝久保達也:鉄道ジャーナリスト)