■ちょっとダサい安心感
このつくりは開業前に実施していた上映会での原体験がある。
「洋風のダンスホールがあるお家を借りていて、靴を脱いでお座敷のような感じで映画を見るのがすごくよかった。こういう空間で見るってなかなかない」
ランプや蓄音機が置かれ、どこか懐かしい。おしゃれすぎない不思議な空間。
「それがテーマでもあります。ちょっとダサいくらいが安心できるというか。リビングの延長じゃないけど、お家に遊びにきたような感覚になってほしい」
ふらっとやってきて、映画を見る。常連客には、そんなスタイルが定着している。体感で7割ほどは地元のリピーターだというが、休日には都内から訪ねてくる人もいる。近くにはサーファー御用達の鵠沼海岸があり、シネコヤと海を行き来して楽しむこともできる。
取材の前に、映画「すべてうまくいきますように」を見た。病で思うように体が動かなくなり、安楽死を望む父親と娘たちの物語。日曜日の昼間だったが、シアターは満席だった。
■「映画+α」にらしさ
映画と本のほかに、もう一つ。「映画と本とパンの店」をうたうシネコヤでは、約20種類のパンを常時取り扱う。3月下旬には、「シネマ&フード」として、上映作品をイメージした料理を提供するイベントも開いた。
「その映画をイメージした食べ物を実際に食べながら見るというもので、お客さんがみんなすごく楽しそうだったのが印象的でした」
開業6周年を迎えたシネコヤだが、ミニシアターを巡る環境は年々厳しさを増している。昨年には、岩波ホールやテアトル梅田など映画ファンに愛された場所の閉館が相次いだ。
「地方でどんどん映画館が減っていくなか、映画とプラスα(アルファ)でその店や地域らしさが出せる業態が広がってほしい。シネコヤが一つのモデルケースになれたらいいなと思っています」
(編集部・福井しほ)
※AERA 2023年5月1-8日合併号より抜粋