周知のとおり日本の平均寿命は延びつづけ、定年後の期間もまた長くなっている。そして、いざ定年を迎えて困惑してしまう人々(ほとんど男性)も増えているようだ。
楠木新の『定年後』がよく読まれている背景にも、そんな現状が透けて見える。自分は定年後の人生を豊かに過ごせるのか、多くの男性会社員たちが不安を抱いているのだろう。
楠木自身、大手生命保険会社に勤務しているときから定年後についていろいろ学び、準備を実践してきた。しかも、50歳からは「会社員から転身した人たち」を取材するフリーランスの仕事を兼ねるようになり、定年後も「働く意味」をテーマに取材や執筆をつづけている。この本の魅力は、このような楠木の試行錯誤と体験を根底に書かれている点にある。
60歳から74歳までの、楠木が「黄金の15年」と呼ぶ時間を充実したものにするためには、50代からの助走が必要となるらしい。究極的には、自分の「死」を意識して逆算で考え、子どもの頃にやりたかったことや会社員時代に培った能力を活かすよう設計してみることが肝要と楠木は説く。
これを別の視点でまとめれば、「主体性」の復活になるだろう。長く組織で働く間に身についてしまった「お任せする」姿勢や、「空気を読む」習慣を払拭し、自分が主役となって生きるためにどうすればいいか、考えてみる。そう遠くない先に死がひかえているのだから、自分に正直に検討し、実践してみればいい。
中年の男性会社員よ、「いい顔」で死ぬためにも、定年後ぐらいは主体的に生きましょう。
※週刊朝日 2017年7月28日号