ぼくも含めて、人は倒産話が好きだ。他人の不幸は蜜の味。いや、明日は我が身。滅びの歌が好きなのは『平家物語』の昔から。倒産話のBGMは、祇園精舎の鐘の声。
藤森徹『あの会社はこうして潰れた』が売れている背景には、そんな気持ちもあるだろう。
信用調査会社のベテラン情報部長が、最近の倒産事例とその原因について書いた本である。経済紙電子版連載コラムをもとにした小さな本だが、たくさんの倒産事例が載っている。
「ジュエリーマキ」の三貴やジーンズのエドウイン、防虫剤・消臭剤の白元など、誰もが知っている会社もあれば、有望視されていたベンチャー企業もある。出版社や取次、書店の倒産もあるし、病院や老人ホームまでも。業種や業態、規模、歴史の長短にかかわらず、どんな企業も潰れるときは潰れるのだ。
倒産に至る理由はさまざま。「売家と唐様で書く三代目」そのままの放漫経営もあれば、時代の変化についていけなかった企業もある。無理な拡大が裏目に出た会社もあれば、マネーゲームの餌食になった会社もある。為替相場の激変など外的な要因で潰れた会社は気の毒だが、それも先を見る目がなかったということ。運不運も大きい。
倒産の理由は多様だが、ひとつだけ共通したことがある。信用だ。会社は信用を失ったとたん、お金が回らなくなり、事業が止まる。長年かけて培った信用も、失うのは一瞬。
本書を閉じたあとで思う。信用をとっくに失ったはずの東京電力や東芝が(いまのところまだ)潰れないのは、どうにも納得できない。
※週刊朝日 2017年6月9日号