「ちょうど最近、オーケストラのドラマをやらせてもらったせいもあって、稽古場の森さんが指揮者のように見えてきました(笑)。私たちが出す音を聞いてて、今度はこっちの音を調整しながら、一つの交響楽に仕上げていくような。個人稽古が終わったあと、初めてみんなで合わせたとき、『わ、オーケストラになった!』みたいな感動がありました」
そうして彼女は、舞台の面白さの一つに、「稽古で誤読ができる」ことを挙げた。
「みんなで台本を読んでいると、細かなやり取りの中に、『あ、そっちの意味だったんだ』みたいな発見がたくさんありますよね。しかも、舞台が本番に入ると、お客様が『そんなところで笑うんだ』とか、新しい発見をくださる。舞台の稽古は、よく『恥をかく場所だ』とか言われるんですが、幾つになってもそういう場所があるってことがうれしいし、ありがたいです」
インタビューをしていると、瀧内さんがとてもいい“聞く耳”を持っていることに驚かされる。この「夜叉ケ池」のテーマについても、森さんの説明をちゃんと聞き、自分の中に落とし込んでいた。
「演劇って、エンタメの中でもとくに、社会への苛立ちをぶつけられるものだと思うんです。森さん曰く、『夜叉ケ池』は幽玄でファンタジーだと謳っているけれど、根底にあるテーマはもっとおどろおどろしいはずだ、と。作品の中には、泉鏡花の社会に対する怒りや苛立ちが詰め込まれていて、世界の崩壊と再生にもつながるとても熱い物語だと説明してくださった。一方で、もののけたちの登場はポップだったりして、今までに観たことのない、想像を裏切る新たな『夜叉ケ池』をお届けすることになると思います」
(菊地陽子、構成/長沢明)
※記事の前編はこちら>>「瀧内公美が語る下積み時代 舞台挨拶後はバイトで必死に皿洗い」
※週刊朝日 2023年5月5-12日合併号より抜粋