昨年は4本の舞台に出演した俳優・瀧内公美さん。ドラマや映画でも引っ張りだこの実力派は、現在、憧れの演出家の厳しい指導に、果敢に立ち向かっている。
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今年、新たな自分に出会えそうな作品と目下格闘中だ。PARCO劇場開場50周年記念シリーズとして上演される泉鏡花作「夜叉ケ池」で、瀧内さんは、主人公の鐘楼守である萩原の妻・百合を演じる。
「演出の森(新太郎)さんの舞台に出ることは、私の夢でしたので、お話をいただいたときは、もう二つ返事でお受けしました(笑)。ただ、これまでに森さんの演出を受けられた方から、『千本ノックのように厳しい』とか、『テーブル稽古をみっちりやる。セリフの“音”についてすごくこだわりがある』とうかがっていて……。でもそれが、すごく今の私にピッタリな課題だと思いました。というのも私自身、“音”から入るアプローチにずっと苦手意識があったんです。自分の気持ちや感覚を優先させて芝居をしてきたのが、最近そういう自分のお芝居に飽きていたこともあって。苦手意識のある音に関して鍛えられれば、新しい表現方法を身につけることができるかもしれないから」
去年は4本の舞台に出演したが、その度に、「舞台は音のメディアだ」と感じた。
「舞台って、座席によって目に入る情報は変わるけれど、音だけは、どの席にも届けなくちゃならない。私がまだお芝居を始める前に小劇場で感じた声の変化だけでお芝居の世界に引き込まれていったように、舞台上で物語のうねりを作っていくのは、視覚以上に音なんです。だから、今回のお稽古では、本読みのときのやり取りを全部録音して、それを聞きながら家でセリフの練習をしています」
指摘された箇所を家で何度も練習し、次の日の稽古で披露すると、また次の課題を与えられる。繰り返し繰り返し、音を体の中にたたき込むと、やがてその音の出し方を、体が自然に覚えてくれることに気づいた。