有罪率99%といわれる日本の刑事裁判で、20件余りの「逆転無罪判決」を出した元東京高裁判事の随想集だ。
公判の冒頭、被告人の本籍や住居を確認する手続きがある。著者は、よく本籍地への行き方を尋ねた。郷里を出てからの人生を手繰りなおしてもらいたいとの思いからで、最初のボタンの掛け方が大事なのは裁判も同じだという。無罪判決は有罪と比べて長文となる。理由は、検察官の上訴に備え、上級審の審査に堪えるものでなければならないからだ。それでも「無罪判決は、楽しくてしょうがない」と記す。
「無罪」が続くと出世に影響はしないか、「勇気」が必要では?との問いへの答えが著者の人柄を表している。実刑か執行猶予かを迷い、二つの「主文」を用意して入廷した話など、裁判官もまた「ひと」だと思わせる。
※週刊朝日 2017年4月21日号