18歳で「ごん狐」、28歳で「手袋を買いに」を執筆。29歳で死去した童話作家・新美南吉が残した膨大な日記・手紙を民俗学者の著者が読み解く。
16歳の2月──徳川幕府の頃における、その無鉄砲な戦の姿を揶揄し〈彼等侠客は、ほり出されたじゃが芋の様に意気にむくれ上っていた。意気は、希望をのせた馬である。希望のさす所へ、意気は、驀地(ばくち)に、馳駆する〉と日記に書き留める。童話「鍛冶屋の子」では不遇の家庭環境をひたむきに生きる少年の生活を、さらに18カ月後に残した草稿「権狐」ではひたむきに生きる権を待つ最期を冷然と切り出す。南吉の作品は常に「宿命」という絶望を孕み、「死」という静寂と隣り合わせにある。純粋さや自己犠牲を美しく描くことを良しとしない筆致から、南吉の優しい素顔があふれ出す。
※週刊朝日 2017年3月3日号