
「19人から被害届が出ている」
「静かな場所で一人で待っていてください。今から山梨県警につなぎます」
とイトウは言い、内線電話のような発信音が20秒ほど鳴るのを聞いていると、山梨県警のムラカミなる人物が登場した。
ムラカミにイトウから聞いた事件名称などのデータを伝えると、
「警視庁からもあったと思うが再度、お願いします。山梨県警本部に来てください」
と繰り返す。遠くなのですぐにいけないと話すと、
「今現状で今西さんからお金を取られましたという方、19人から被害届が出ている。あなた名義の楽天銀行に振り込んでお金をとられたって形です。被害は数千万円。口座を開設されたことで間違いないですね」
イトウとは違って、上司ふうの口調で畳みかけ、追い込もうという魂胆が透けて見える。改めて、口座開設はしていない、口座を売買したこともないが心配だと伝えると、
「今住んでいる場所の地方警察に行けますか。今日、今すぐにでも」
とムラカミは強い口調で押してくる。そこで、かつて住んでいた近畿地方のある市の名前を言い、そこなら近いので行けると答えた。するとムラカミの背後でカチャカチャとパソコンのキーボード操作をしている音がする。
「警察の住所を言います。〇〇市…」
と読み始めるが、地名の読み方が明らかに間違っている。名前を間違われてもスルーのイトウ、地名も読めないムラカミ。それでも、
「どうしても無理なら強制捜査をかけますから」
と不安にさせようと、同じような文言を繰り返す。
電話口の後方では、時より「警察」「口座」などと別の人物が電話をしている声も聞こえる。まさに、典型的な振り込め詐欺グループであることがわかる。
「翌日、指定された警察署に行く」
と告げると、電話は切れた。合計41分28秒の会話だった。