2019年、振り込め詐欺に関与していたとしてタイの詐欺拠点が摘発され日本人15人が逮捕された。今回の電話も海外からかけられていた可能性が高い
2019年、振り込め詐欺に関与していたとしてタイの詐欺拠点が摘発され日本人15人が逮捕された。今回の電話も海外からかけられていた可能性が高い

「19人から被害届が出ている」

「静かな場所で一人で待っていてください。今から山梨県警につなぎます」

 とイトウは言い、内線電話のような発信音が20秒ほど鳴るのを聞いていると、山梨県警のムラカミなる人物が登場した。

 ムラカミにイトウから聞いた事件名称などのデータを伝えると、

「警視庁からもあったと思うが再度、お願いします。山梨県警本部に来てください」

 と繰り返す。遠くなのですぐにいけないと話すと、

「今現状で今西さんからお金を取られましたという方、19人から被害届が出ている。あなた名義の楽天銀行に振り込んでお金をとられたって形です。被害は数千万円。口座を開設されたことで間違いないですね」

 イトウとは違って、上司ふうの口調で畳みかけ、追い込もうという魂胆が透けて見える。改めて、口座開設はしていない、口座を売買したこともないが心配だと伝えると、

「今住んでいる場所の地方警察に行けますか。今日、今すぐにでも」

 とムラカミは強い口調で押してくる。そこで、かつて住んでいた近畿地方のある市の名前を言い、そこなら近いので行けると答えた。するとムラカミの背後でカチャカチャとパソコンのキーボード操作をしている音がする。

「警察の住所を言います。〇〇市…」

 と読み始めるが、地名の読み方が明らかに間違っている。名前を間違われてもスルーのイトウ、地名も読めないムラカミ。それでも、

「どうしても無理なら強制捜査をかけますから」

 と不安にさせようと、同じような文言を繰り返す。

 電話口の後方では、時より「警察」「口座」などと別の人物が電話をしている声も聞こえる。まさに、典型的な振り込め詐欺グループであることがわかる。

「翌日、指定された警察署に行く」

 と告げると、電話は切れた。合計41分28秒の会話だった。

次のページ 「おそらくタイかカンボジアからの電話」