うつ病に悩む人は多い。ぼくのまわりにも何人かいるし、他人事ではない。
田中圭一の『うつヌケ』は、うつ病を真っ暗なトンネルにたとえ、そこから抜け出した人びとに取材したコミックエッセイである。
はじめに著者自身の体験が紹介される。サラリーマンとマンガ家という二つの仕事で忙しく働いていた著者は、転職をきっかけにうつ病になる。「あなたのうつ病は一生もの」ということばで医者に不信感をいだいて悪化。勝手に服薬をやめたり、医者を転々としたりとますます悪化。
トンネル脱出のきっかけは、コンビニで見つけた文庫本だった。うつ病にかかった精神科医が書いたエッセイである。著者は再発と回復を繰り返しながらも、自分の場合は気温の変化が引き金でうつ病になることに気づく。そして、「うつはそのうち完全に治る」と実感するに至る。
ここまではいわば序章。以下、著者が会って聞いた、さまざまな人の「うつヌケ」体験談が続く。
この人もうつ病に苦しんでいたのか、と驚く。ミュージシャンの大槻ケンヂ、AV監督の代々木忠、小説家の宮内悠介、熊谷達也、そして思想家の内田樹も。彼らに共通するのは、多忙さであり、責任感の強さであり、無意識に設定する目標の高さである。
「うつヌケ」のきっかけとなるのも人それぞれ。大槻ケンヂの場合は森田療法との出会いであり、内田樹は合気道を通じて「脳を休ませて身体の声を聞く」ことに気づく。
マンガという表現がテーマにぴったりだ。軽い気持ちでパラパラめくれるのがいい。なんだか効きそう。
※週刊朝日 2017年2月24日号