
ベストメンバーで臨むべきか、リスクを回避すべきか――。DeNAと対戦する球団が頭を悩ませているのは、日本球界に復帰した藤浪晋太郎が登板するときの選手起用だ。
日本復帰後初登板となった8月17日の中日戦で、藤浪は5回を5安打1四球5奪三振1失点の粘投で、1点リードと勝ち投手の権利を保ってマウンドを降りた。その後、同点に追いつかれたため、阪神時代の2022年9月23日以来となるNPBでの勝利はかなわなかったが、上々の滑り出しを切ったと言えるだろう。
もっとも、この試合で話題になったのは、藤浪の登板内容よりも、中日がスタメンで投手含め9人すべて左打者を並べたことだ。試合後、中日の井上一樹監督はこうコメントしたと報じられた。
「オレもケガ人は出したくないし、ベストオーダーで臨めない」
「右(打者)の細川(成也)らに万が一のことがあったらと思ったら。他の監督もそうするのでは」
スタメン全員、左打者を並べるというオーダーは極めて珍しい。過去には阪神時代の青柳晃洋(現ヤクルト)が左打者の対戦成績で分が悪かったため、巨人が20年9月16日の阪神戦で、スイッチヒッターの若林晃弘(現日本ハム)を含む9人の左打者をスタメンに並べたケースがある。広島も23年5月19日の阪神戦で、青柳対策に全員左打者を起用している。パ・リーグでは、楽天が12年7月7日の西武戦で相手先発のアンダースロー・牧田和久を攻略するため、スイッチヒッターの松井稼頭央も入れた9人の左打者で攻略を狙ったケースがある。
だが今回、中日が左打者を並べたのは藤浪を攻略するためではなく、制球が悪い藤浪の投球がすっぽ抜け、右打者が死球を受けて故障するリスクを避けるためだった。他球団のコーチは複雑な表情を浮かべる。
「CS進出に向けて中日も本来はベストメンバーで戦いたかったはず。井上監督も主軸の細川成也を起用するか葛藤はあったと思います。ただ、試合後に言及していたように主力の右打者に死球が当たって戦列を離れるとなれば、大きな戦力ダウンにつながってしまう。藤浪も死球を当てたくて当てているわけではないのはわかりますが、死球で打者の野球人生が変わってしまうケースがある。死球への恐怖心で腰が引けてしまい、打ち方の修正に苦労した選手を何人も見てきました。左打者9人を並べたオーダーはやむを得ない判断だと思います」