藤浪対策で左打者9人を並べた8月17日の中日スタメン(日刊スポーツ)
藤浪対策で左打者9人を並べた8月17日の中日スタメン(日刊スポーツ)

「右打者の顔面付近にすっぽ抜ける」

 制球難に苦しむ投手はほかにもいるが、「藤浪は他の投手と違う点がある」とセ・リーグの球団OBは指摘する。

「右打者の顔面付近にすっぽ抜ける死球が目立つことです。腰より下ならよけ方を工夫すれば痛みを軽減できるのですが、顔の近くに来るとよけられない。死球にならなかったとしても、その球の残像が残ってしまうんですよね。『またくるんじゃないか』と迷いが生じて踏み込めなくなる。投手は内角を突かなければ抑えられないですが、打者は『ぶつけないだろう』という信頼が成り立った上で対戦しています。その信頼関係がないと、打者は怖くて勝負ができない。『打席で勝負する覚悟が足りない』という人がいるかもしれませんが、150キロを超える直球が頭部にくるかもしれないという恐怖心を想像してください。打撃のバランスが崩れる危険性がありますし、非常にデリケートな問題です」

 藤浪の制球難は今に始まったことではない。阪神に在籍した10年間で、与死球数で2回、暴投数で3回、リーグワーストを記録。ポスティングシステムを利用したメジャー挑戦でも、制球難がネックとなり続けた。初年度の23年はアスレチックス、オリオールズで主にリリーバーとして計64試合に登板したが、メッツと1年契約を結んだ昨年はメジャー登板なし。マリナーズとマイナー契約を結んだ今年も四死球が多くてメジャー昇格が叶わず、6月17日に自由契約となった。移籍先を模索する中、再生可能と判断して熱心にラブコールを送ってきたのがDeNAだった。

 DeNAはAIを活用した科学的アプローチで藤浪の制球力を向上させることを目指しているが、その道は険しい。1軍登板に向けてファームで調整を進めていたが、8月6日のイースタン・リーグの巨人戦で先発登板した際は、4回途中まで投げて3安打5失点で降板。5四球に加え、2回に山瀬慎之介、3回は亀田啓太と、いずれも右打者にカットボールが抜ける形で死球を当てている。

 他球団の首脳陣はこの試合を映像で確認しているだろう。中日が左打者を9人並べたのは決して予想外の戦略とも言えない。

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