「アメリカ=善」と「中国=悪」という洗脳
しかし、それはもはや幻影に過ぎない。今や、安倍内閣を経て岸田内閣までには、国民生活最優先主義は放棄され、防衛費倍増のために優先的にあらゆる財源を充当する「軍拡最優先」主義の国になってしまった。
日本人が気づいていないと書いたが、その観点から見て、私が気づいた「5つの洗脳」について紹介したい。
第1は、「抑止力」という言葉による洗脳だ。これは、「戦争は絶対にしてはいけない」という誰もが受け入れる話から始まる。その次に、「しかし、日本周辺にはロシア、北朝鮮、中国など危ない国ばかりだ」「戦争はいけないが万一に備える『抑止力』は必要だ」「敵は中国で軍事大国だから、抑止力は強大でなくてはならない」「したがって、GDP比2%に増やさなければならない」「相手を恐れさせるために敵基地に届くミサイルやアメリカ製の最新兵器が必要だ」という論理が続く。国民は抑止力理論に洗脳されてしまっている。
第2の洗脳が、「アメリカ=善」と「中国=悪」という洗脳だ。アメリカ=善というテーマは、終戦後から始まり、今日まで営々と築かれてきた。一方で、詳述はしないが、何が起きても、中国が悪い、中国が怖いという話を安倍政権以来日本政府は言い続け、マスコミも、真偽を確認しないままそれを垂れ流してきた。これによって、国民の嫌中意識は歴史上最悪のレベルに高まっている。
第3の洗脳は、「台湾有事」の洗脳。最初は、単に米軍関係者が述べただけの話だったが、今や、2027年という年限までつけて、まことしやかに流布されている。全く根拠はないのだが、マスコミは、もう既定の事実の如く書き続ける。
第4の洗脳は、「台湾有事=日本有事」という洗脳だ。台湾は中国の領土の一部だ。その台湾がどうなるかは、中国の国内問題だから、それが日本有事になるということは論理的にあり得ない。それが現実のものになる唯一の例外は、日本が台湾有事に自ら参加して、米軍と共に戦うという場合だけだ。前述のCSISのシミュレーションでは、アメリカは、日本の参戦と在日米軍基地の使用許可がなければ中国に勝てないという結果だった。ということは、日本が台湾有事に際して、完全中立の立場を取れば、アメリカは参戦できず、それがわかっていれば、台湾も無謀な独立戦争という選択を行う可能性はゼロになる。つまり、台湾有事は起きない。台湾有事を起こすも止めるも日本次第ということだが、国民は、逆に台湾有事は中国が起こすもので、そうなれば、日本有事だと洗脳されているのだ。
5つ目の洗脳は、「日米安保=命」、すなわち、日本の安全保障にとって、日米安保条約が不可欠で、したがって、何があってもこの条約を守らなければならない。そのためには、アメリカを怒らせてはいけないという洗脳である。元々は、日本の国民を守るための日米安保だったが、今は、それが逆転した。アメリカを怒らせてはいけないから、台湾有事に参戦しないわけにはいかない、在日米軍基地を使わせないわけにはいかないと言って、日米安保を守るために、日本が戦争に巻き込まれ、日本の国民の命を奪う道に向かっている。国民を守るための日米安保のはずなのに、日米安保を守るために国民の血が流れるという日米安保のパラドックスが生じている。