8月9日、長崎市で行われた平和祈念式典でのあいさつで永井隆博士の言葉を引用した石破茂首相(写真:ロイター/アフロ)
8月9日、長崎市で行われた平和祈念式典でのあいさつで永井隆博士の言葉を引用した石破茂首相(写真:ロイター/アフロ)

日本が戦場になったことを前提とした日米合同の訓練

 一方、この平和憲法の神通力には、最近になって陰りが見えてきた。特に第2次安倍政権以来の政策は、日本国憲法とその精神を根本から変質させるものとなっている。

 ほんの少しだけ例示しても、国家安全保障会議を作ったNSC法、特定秘密保護法の制定、武器輸出三原則廃止と防衛装備移転三原則の創設、そして、解釈改憲による集団的自衛権行使容認、防衛費GDP比2%目標、防衛産業強化法、経済安全保障推進法、セキュリティ・クリアランス法、沖縄のミサイル・レーダー基地建設など、全ては戦争を具体的に想定した上で必要な体制整備を進める動きだ。 

 今も進む沖縄でのシェルター設置と避難計画、台湾有事における日本参戦を前提としたシミュレーション、さらに、この夏に行われた米空軍主催の多国間共同演習「レゾリュート・フォース・パシフィック」では、日本が戦場になったことを前提とした日米合同の実戦形式の訓練が行われたと報じられた。航空自衛隊の基地が爆撃を受け、日米が共同でその修復をするというリアルなものになっていると聞けば誰もが驚くのではないか。

 ここまでくると、戦争まであと一歩だが、まだまだ必要なことはある。

 戦争するとなれば、軍法会議が必要だ。緊急事態条項、9条改正はもちろん、徴兵制まで実現してしまうかもしれない。

 さらに驚くべきことに、核共有や核武装を提唱する国会議員まで現れた。

 このような日本は、世界から見てどう見えるのだろうか。

 台湾有事のシミュレーションで、日本でも有名になったアメリカの戦略国際問題研究所(CSIS)日本部長は、インタビューで、「2010年ごろは台湾有事のシナリオを話すのは不可能だった。いま日米はより率直に現実的に話し合えるようになり、議論が深まっている。反撃能力の保有は東アジアでの抑止力と安定に貢献できる。……前向きな一歩だ」と述べた。

 一方、中国の呉江浩駐日大使は、「日本には外敵がいるから防衛費を増やすのは当然だと一般人が普通に口にすることは、15年前には考えられなかった」という趣旨の発言をしたのを聞いた。米中いずれもが日本の変貌に驚いているのだ。

 イギリスのBBCは、安倍元首相の映像を使いながら「日本が静かに平和主義を放棄しつつある」と伝え、アメリカのタイム誌は、「岸田総理大臣は何十年も続く平和主義を放棄し、自国を真の軍事大国にしたいと望んでいる」と表紙に岸田文雄前首相の写真と共に掲げて話題になった。

 つまり、「日本は平和主義を捨てた」と海外は見抜いているのだ。ただし、それは普通の西側の先進国、すなわち、普通に戦争をする国の仲間入りをしたというだけのことなので、批判はされない。批判されないので、日本人だけは自己の変質に気づかず、いまだに日本は世界に冠たる平和主義の国だと信じている。

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