
スタジオジブリの名作を舞台化し、大成功を収めた「千と千尋の神隠し」のロンドン公演に続く海外公演が上海で開幕。さらに、来年1月-3月には韓国・ソウルの「芸術の殿堂 オペラハウス」での上演も発表された。各国の観客を熱狂させる舞台の世界を支える一人、衣装デザインを担当した中原幸子の抱く信念は。 AERA2025年8月11日-8月18日合併号より。
【写真】アーティストからアニメーション・ゲームのキャラクターの衣装デザインまで、幅広い分野で活躍する中原さん
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この春、世界的な演劇賞、英国ローレンス・オリヴィエ賞の「最優秀衣装デザイン賞」にノミネートされた日本人がいる。衣装デザイナーでスタイリストの中原幸子だ。
対象となったのは、2024年、ロンドンのコロシアムで上演された舞台「Spirited Away」の衣装。7月14日から上海公演もスタートしているこの舞台は、スタジオジブリのアニメーション映画「千と千尋の神隠し」を演出家のジョン・ケアードが舞台化した。
千尋役の橋本環奈、上白石萌音、川栄李奈、福地桃子ら日本人の役者が日本語で演じる字幕付きの舞台ながら、ロンドン公演では30万人を動員するヒットを記録している。
役者によって同じ役でも衣装を変える
中原の作る衣装は、細部にまで込められた、こだわりでも知られている。22年の初演から中原が参加しているこの舞台でも、たとえ一番前に座った観客にもわからないようなこだわりが衣装のあちこちにちりばめられている。例えば同じ千尋の衣装でも、演じるキャストによって、衣装の汚れやほつれなどを変えることも少なくない。
「感じたのは、同じ千尋でも役者さんによって演技の仕方がぜんぜん違うということ。千尋についての思いは一緒だとしても、演じる人の中で千尋への解釈が、まったく違うことを感じました」
例えば橋本環奈の千尋なら、ちょっと男の子っぽい破天荒なイメージ。一方で「行くときは行く」というような強さも感じたという。
「そこで衣装には少しざらっとした生地を使うことが多かった。もうひとつ、橋本さんの千尋は尻餅をついたりして、動きも大きい。地面を這いずり回って動くような場面がよくあったので、衣装にわざと傷をつけたり、膝の部分をやすりで白っぽくしたりしていました」
一方、上白石萌音の演じる千尋は繊細なタイプだ。内包されたやさしさを感じさせられるキャラクターで、その癖は手で服をギュッと握ること。また、ちょっとおっちょこちょいな千尋というイメージも感じさせた。
「そんな上白石さんの千尋には、素材もけっこう繊細で、なめらかなものを使うことが多かった。一方、お料理を配る場面で、お味噌汁をこぼしそうな雰囲気があったので(笑)、食べ物をこぼしたときのシミなどを衣装に付けたりしていますね」