温泉は外国人の興味・関心が高いコンテンツではあるので、施設側がこうした歩み寄りを見せるか、または海外の方が日本の風習に慣れてくるかによって、今後の人気が爆発的に高まるかもしれませんね。

世界的に見て、入浴文化があるのは日本だけ

 世界的に見ると、温泉云々ではなく、そもそも入浴文化自体が珍しいといえます。

 総務省「平成20年住宅・土地統計調査」によると、日本の住宅の浴室保有率は95・5 %でした。少なくとも、自宅で毎日湯船に浸かる生活習慣がある国は、日本しかないと考えられます。私は25年にわたり入浴の研究をしてきた医師で、国内外の研究論文は絶えずチェックしていますが、海外で「毎日の入浴習慣が健康にもたらす効果」を研究した論文は、これまでにほとんど見たことがないからです。

 ヨーロッパの入浴・温泉文化は、「体を清潔に保つこと」や「健康増進」よりも「病気の療養」を目的としています。つまり医療の一環です。また、温泉入浴のみならず、水中での運動、蒸気浴、泥浴、飲泉、吸入など、多彩な利用法が取り入れられています。中でも研究が盛んなのがフランスで、温泉療養には健康保険が適用されます。

 適用対象は関節リウマチ、呼吸器疾患、血管疾患、消化器官など12疾患。医師の診断書と同じ温泉地に3週間(日曜を除く18日間治療)滞在することで、温泉療養費の65%が還付されます。フランスの温泉地は約90カ所。日本に比べて温泉地の数は少ないものの、自然環境がもつ保健作用に着目し、医学的な研究が盛んであるという特徴があります。

 その理由は、どこの国も同じですが、医療費のひっ迫にあります。フランス政府もなんとか医療費を下げたい思惑があったのですが、一時は温泉療養の保険適用を廃止する声も上がっていたのだとか。そこでフランスの医学会、民間関連団体が一致団結し、制度を持続させるために科学的エビデンスの取得に努めているのです。

 日本の温泉施設で徴収される入湯税は、市区町村が観光誘致や施設整備などに使用しますが、フランスでは研究者に一定額が渡されます。年間1億円ほどの研究費として使われ、温泉に関する学術研究の発展に役立っています。

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