
インバウンド需要が回復するなか、外国人観光客が日本の風習に戸惑いながらも注目するものに「温泉」があります。日本健康開発財団温泉医科学研究所所長の早坂信哉医師は「そもそも、自宅で毎日湯船に浸かる生活習慣がある国は、日本しかないと考えられます」と語ります。
早坂医師の最新著書『医師が教える温泉の教科書 日帰りでも「湯治」はできる! 疲労回復の極意18』(朝日新聞出版)では、最新研究にもとづき温泉の泉質ごとの効果や正しい入浴法などをまとめています。同書から、ヨーロッパやアジアの温泉について抜粋してお届けします。
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日本人は「風呂好きな民族だ」とよく言われます。では海外の人からすると、日本の温泉はどのように見られているのでしょうか。
インバウンド需要が回復し、どこもかしこも外国人観光客でにぎわうようになりました。しかし、温泉地で働く人の話を聞くと、「訪日外国人が増えた」という実感はあまりないようです。おそらくその理由は、外から見ただけでは温泉内の様子がわからないことと、人前で裸になることに抵抗感があること。海外には他人と裸で風呂や温泉に入る習慣がないため、日本の風習に戸惑う人は少なくありません。
例えば、ドイツやフランスには全裸で入る温泉もありますが、基本的には水着着用を前提としています。裸になることを禁じている宗教もあり、海外の人が初めて訪れた日本で温泉に入ることは、少々ハードルが高いのかもしれません。
観光庁「インバウンド消費動向調査」(2024年年間報告書)によると、外国人観光客が「今回の訪日旅行でしたこと」で温泉入浴は8位(27 ・5%)に留まりますが、「次回の訪日旅行でしたいこと」では2位(46・9%)にランクインしています。この結果から推察すると、「初回はややハードルが高いので2回目以降にチャレンジしたい」と考える人が多いのかもしれません。
実施している施設はまだ少ないですが、体を隠せる「湯浴み着」を着用した入浴を許可する温泉施設も登場し始めています。近年は、宗教・文化・ファッションなどのさまざまな理由で入れ墨(タトゥー)をしている場合があることを理解し、基準を設けることで入浴を許容する施設も増えてきました。
