「水分補給も大切ですが、しっかり食事をとらないとすぐに体力の限界がきます。いまの気候は気合で乗り切れるものではもうありませんから。生命にかかわることなので昼休憩を取らず働き続けようとする後輩には、『一緒に飯いこう。一回休もう』って声をかけるようにしています」
配達員の負担を減らすには、過度なサービスを求める客の意識を変えていくのも大事だ。男性によると、最近は「ご苦労さま」と声をかけ、スポーツドリンクやお茶、アメなどをそっと渡してくれるケースも増えているという。
「年々差し入れしてくださる方が増えています。これがめちゃくちゃうれしくて。ほかのドライバーと、『きょうはこんなにもらったよ』と報告し合うこともあります」
一方で、今年6月にはこんな事例も。
マンションの女性宅。インターホンを2回押したが反応がなかった。不在票をおいて離れると、30分後に電話がかかってきた。男性が振り返る。
「ブチ切れた感じで、『あんたさっき来た? 午前中ずっと待っていたのよ』と叱責されたので、『2回ほど鳴らさせていただいて応答がなかったので不在票を入れさせていただきました』と告げると、『ピンポン押して反応がなかったら、ノックして会社名を名乗るぐらいの気をつかいなさいよ』って言われたんです」
男性は謝罪し、「今すぐ行きます」と伝えると、「来なさい!」と命令口調で電話を切られた。男性が玄関前でノックすると、女性は「そこに置いといてください」と言って部屋から出てこず、顔を合わす機会はなかった。男性は言う。
「宅配はサービス業ですから、お客さんを不快にさせないのはもちろん重要だと思っています。でもその時の気分の良しあしで、『もっと気をつかえ』っていうのは、あまりに虫が良すぎるんじゃないか、と思いました」
酷暑が続くなか、便利な生活を維持できているのは、それを支える人たちがいてくれるからこそ。サービスを享受する以上、担い手の人たちへの感謝とリスペクトを失いたくない。
(AERA編集部・渡辺豪)
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