
職場での熱中症対策を企業に義務付ける改正労働安全衛生規則が6月に施行された。猛暑が続くなか、屋外で働く人の職場環境はどうなっているのか。
【図】熱中症はどんな症状がでると要注意? 進行のステップはこちら
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宅配便を手渡した直後、玄関先で急に立ちくらみがして、思わずその場に座り込んだ。荷物を受け取った女性が心配し、コップに水をくんできてくれた。
「ちょっとだけ、すみません」
何とか声を振り絞り、数分間その場にうずくまった。差し出されたコップの水を口にふくみ、頭を下げてその場を後にした。昨年9月の猛暑日のことだ。
「午前9時に首に巻いたタオルの汗が2時間足らずで絞れちゃうぐらいの暑さの日でした」
体調悪化のシーンをこう振り返るのは、大手宅配業者で10年余の配達員歴のある40代の男性だ。この数年で2回、夏場の配達中に熱中症で倒れ、救急搬送された。
今年6月に熱中症対策が義務化されて以降、何か変化はあったのか。そう問うと、男性は苦笑交じりにこう返した。
「何もないです。強いて言うなら、事務所のテーブルに置いてある熱中症対策用の塩アメとシャーベット状の飲料水の量が少し増えたぐらいですかね」
男性の勤務先企業は、熱中症対策の一環として今年6月から「ファン付きベスト」の導入を拡大する、と発表している。貸与対象はトラックで集配業務を行うドライバーら。都内で勤務する男性もその一人だが、猛暑が続く7月末現在、まだ支給されていないという。
「こういうことって大体、お客さんから聞いて知ることが多いんですよ」と男性は呆れた様子で打ち明けた。配達時、顔見知りの客から「よかったわね。やっと支給されるらしいね」と言われて初めて会社の方針を知ったというのだ。
「6月に入った頃、お客さんが自分のことのように喜んで話してくれたんです。でも会社からは何も聞いてなくて、『なんですかそれ?』って聞き返したのを覚えています」
事務所に戻って上司に問うと、「そんな話もあった気がするな……」と人ごとのような反応だった。本部に請求して2週間後。配達員の名前と人数、サイズを記入する申請用紙が送られてきた。男性が明かす。