「申請用紙を提出後、1カ月以上たった今も本部からは音沙汰がありません。あれだけ大々的に発表しておいて、一番暑い時期に支給が間に合っていないっておかしくないですか」

 会社の支給が始まるのを待っていられないため、市販の冷却グッズを自腹で購入する配達員も少なくないという。

「一番多いのは首回りを冷やす『ネッククーラー』です。2個持参し、運転席の冷蔵庫で冷やしたものと交互に使っています」

 配達時の暑さの要因は半そで、長ズボンに帽子というユニホームにもあるという。男性は自社の服装規定の厳しさについて、「うちの会社、ボーイスカウトみたいなところがあって……」と嘆き、こう続けた。

「体の熱を逃がすには、首や足首といった『首』がつく部分を開放するのが最も効果的なんです。今年に入ってようやく、作業服のシャツの第1ボタンを開けてもよいルールに変わったんですけど、これだけでも体感温度は全く違います」

 男性は配達時、シャツの第1ボタンを外し、首には目立たない色のタオルを巻いている。

「首にタオルを巻くのは禁止されていますが、これは必須なんです」

 宅配便に汗が落ちた跡が残っていると、客から受け取りを拒否されることもあった。このため、男性はトラックから荷物を出すときに、自分の額の汗をタオルで必ずぬぐうようにしている。

 ズボンのすそを折るのも会社から禁止されているが、「くるぶしの下あたりまで、少しだけまくっています」と男性はこっそり明かした。

「これだけで体感温度が全く違うんです。会社にばれてペナルティーを科されるリスクもありますが、こうした自衛策をしていないと暑さで倒れちゃう。このことは経験則で分かっているから規定を破るのは避けられない。そこはもう開き直っています」

 男性の会社では、配達員がしっかり昼休憩を取れるよう12~14時の時間帯の配達を廃止しているが、昼食抜きで配達を続ける同僚もいるという。配達量が増える一方、ドライバーは増えていないからだ。しかし、そうした働き方をしていると、夏場は特に熱中症のリスクが高まるのは言うまでもない。

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