「家の中に宮内省の役人やお付きの人が常にいるので、表情ひとつ、言葉ひとつに気を遣わないといけなかった。自伝には喋らない癖がついたと書いてありました。二人が自由に話せたのは寝室ぐらいだったと思います」

 二人が住んだ邸宅は現在も千代田区紀尾井町にあり、結婚披露宴や会食に使われている。

 深沢さんは庶民の生活や朝鮮半島の状況も書こうと、マサという架空の女性を登場させた。関東大震災、終戦後の韓国などがマサの視点からも描かれている。

「ウクライナで戦争が続いていますが、侵略して植民地にすることがどれだけ人を傷つけ不幸な現実を生み出すのか、過去を知ることであぶり出されるのではないかと思いながら書きました」

 終戦後、李王家は韓国を日本に渡したとして厳しい目を向けられる。

「でも、その生き方を選ばざるをえない人にも苦しさがある。他の国に占領されたら自分は反発できるのか。命を顧みずに反発した人はヒーローになりますけど、ほとんどの人はそこまで強くない」

 独立運動に身を投じる男性は韓国の俳優チャン・ヒョクを思い浮かべて書いた。

 韓国の宮殿や日本人妻が暮らす慶州ナザレ園なども取材し、力を出し切ったと話す。原稿用紙約800枚分、構想から7年をかけた労作だ。(仲宇佐ゆり)

週刊朝日  2023年4月28日号

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