
舞台「WAR BRIDE─アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン─」で「戦争花嫁」を演じる奈緒さん。役が決まったときに考えたこととは。AERA 2025年8月4日号より。
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第2次世界大戦後、占領下の日本に駐留していた兵士と結婚して、外国へ渡った多くの日本人女性がいた。彼女たちは「戦争花嫁」と呼ばれ、結婚のために渡米した日本人女性だけで4万5千人にも及んだといわれる。
英語でWAR BRIDEと呼ばれた彼女たちのなかには、偏見と差別のなか、異国で歯を食いしばって生き抜いた人も少なくない。現在アメリカ・オハイオ州で暮らす桂子・ハーンさん(94)も、日本に駐留していたアメリカ兵・フランクさんと結婚し、アメリカに渡った戦争花嫁のひとりだった。
彼女のこれまでの人生を描いたドキュメンタリー映画は、2023年に日本の映画祭で上映されると大反響を呼び、今年の終戦記念日に合わせて舞台が開幕することになった。名づけて「WAR BRIDE─アメリカと日本の架け橋 桂子・ハーン─」。
桂子さんを演じる俳優の奈緒さんは、今回の役が決まったときの感想をこう語る。
「戦争は、自分が年を重ねるにつれて、もっと深く知らなければいけないと思っていたテーマ。その戦争が背景にある舞台をできるということは、自分の人生においてもすごく大きなタイミングなのかなというふうに感じました」
30歳になったばかりの彼女だが、生まれたのは原爆が落とされた長崎と同じ九州の福岡。祖父も出征経験があり、小さい時から戦争を、ものすごく身近に、そして怖いものと感じていたという。
大切な人を守るために
「おじいちゃんがいなかったら、私もいなかった。でもいま私はこうして存在していて、笑顔でご飯を食べたり、好きな道を歩んだりしています。戦争のことを考えると、当たり前の日常が、とても希望に満ちたものに感じられます。そんな毎日や、大切な人を守るためにも、いまこそ戦争としっかり向き合っていかなければいけないなと思うんですよね」
アメリカに住む桂子さんにも会いに行った。約3日間、桂子さんとともに過ごすなかで、何より印象に残ったのは、桂子さんが日本にいるときの思い出話だった。花が好きな桂子さんが庭に花を植えていたところ、近所の方が通りかかって「なぜ食べられない物を植えているの?」と注意されたのだという。
「些細なエピソードかもしれませんが、なぜ桂子さんがその話を私にしてくださったのか、そして日常に起きたそのできごとを、なぜ鮮明に覚えていらっしゃったのかということが、衝撃でした。当時は食べることに誰もが精一杯。それ以外のものに安らぎを求めることに、厳しい目を向けられた時代だったことを痛感するようなお話でした」
(ライター・福光恵)

※AERA 2025年8月4日号より抜粋
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