
歌舞伎役者の生涯を描いた吉田修一さんによる同名小説(朝日新聞出版)が映画化された、「国宝」。7月21日までの公開46日間で観客動員数486万人、興行収入65億5千万円を突破し、大ヒット中だ。歌舞伎界からも作品を評価する声が続々上がるなか、人気若手歌舞伎俳優・中村米吉さん(32)に話を聞いた。(【後編】歌舞伎役者の「血」を拠り所にしている 中村米吉が語る映画「国宝」と歌舞伎界のこれからはこちら)
【写真】美しい!「祇園祭礼信仰記 金閣寺」で「雪姫」を演じた中村米吉さんはこちら
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私が「国宝」を鑑賞したのは、巷で話題になってからのことでした。原作の小説は以前に拝読しておりました。映画化されるということで楽しみにしておりましたが、想像以上の高い評価を耳にしていたため、自然と期待値が上がった状態での鑑賞となりました。
「私たち必要なくなってしまうのでは」
立花喜久雄を演じた吉沢亮さんと、大垣俊介を演じた横浜流星さんの姿を見て、「この方々が歌舞伎に専念なさったらどうなるんだろうか。私たち必要なくなってしまうのではないだろうか」と感じさせられました。
作中の歌舞伎役者を演じた方々のお芝居を私が評価する立場にはありませんが、それでも約3時間という限られた映画の中で、違和感なく「歌舞伎役者」として舞台に立っている姿を見せるのは、並大抵のことではありません。その裏には、相当な苦労があったことと推察いたします。
本作では、普段は客席からは見られない視点で歌舞伎が描かれていることも話題となりました。役者から見える客席の様子など、なかなか皆さんにお見せできない景色です。ただ、私にとってはその景色は日常のものですから、その部分の感想を聞かれても、「満員のお客様が少し羨ましいと思った」くらいしか言えません(笑)。
また、視点の取り方や演出の工夫には感心させられました。踊っているときに相手がどう見えるのか、舞台裏からはどう見えているのか……。そうした細やかな描写が非常にリアルで印象的でした。