
笑顔の奥にある「記憶喪失」という謎
ネルラの実家・鈴木家の家族構成もまた、奇妙さを漂わせる。
母親は弟・レオ(板垣李光人)を産んだ際に亡くなり、週に一度の家族食事会は恒例。だが、ネルラはその集まりを心から楽しんでいるようには見えない。「今年は幸太郎さんも舞鶴に行ってもらおうと思ってる」とレオに告げる一方で、その目はどこか虚ろに漂い、過去を置き去りにしているようでもある。
SNSでは、突如出現した「舞鶴」というワードに反応する声や、位牌が二つあるにもかかわらず遺影がない事実に対して疑問を呈する声が多い。ひとつは亡くなった母のものであるはずだが、もしかするともうひとつは、15年前に亡くなった元婚約者・布勢夕人(玉置玲央)のものなのか? 言葉少なに、かつ巧妙に練られた脚本だからこそ、考察脳が止まらない。
そして、なんといっても怪しいのが、「事件当時の記憶がない」と主張するネルラその人である。階段から落ちてできたとは思えない打撲痕があった布勢、当時の婚約者だったネルラが第一発見者であるという事実、そして過去を語るときの“肝心なところだけ覚えていない”というあいまいさ。これらすべてが、ネルラの告白の信憑性を揺るがせる。
だが、彼女はこうも言う——「幸太郎さんと出会って、ふたりで楽しく生きたいと思うようになった」。それは嘘なのか、真実なのか。それとも、どちらでもあるのか。
松たか子の演技は、そのあいまいさと脆さを見事に表現している。視聴者の心に“信じたい気持ち”を残したまま、じわじわと疑念を膨らませていく。

刑事の執着、しがらみ…すべてが気になる
そしてもちろん、事件を追う杉野遥亮演じる黒川刑事の動向も見逃せない。ネルラを再捜査する理由、それが職務以上の“何か”であることは間違いない。兄弟説や個人的な恨みといった臆測がSNSをにぎわせるのも納得だ。
「しあわせな結婚」第2話は、疑念を“物語の軸”へと育て、視聴者を深く物語へ引き込んでいった。ラブストーリーの皮をかぶった、静かで巧妙なサスペンス。
次回、ネルラはさらに何を語るのか。信じたいのに怖い——そんな感情が、今夜もまた私たちを画面に縫い付けるに違いない。
(北村有)