これらのプラス、マイナス両面から、開幕前の下馬評では「広島は今年もBクラス」の声が多かった。

 はたして、シーズンが開幕すると、広島は14試合で6勝8敗の5位ともたついた。事件が起きたのは、そんな矢先の4月27日の阪神戦だった。

 0対0の8回、球審のボール判定に激しく抗議したルーツ監督は、暴力行為で退場を宣告されたが、従おうとしない。審判団の要請で重松良典球団代表が説得すると、ようやく試合再開に応じたが、グラウンドの全権を侵されたことに納得できないルーツ監督は、開幕からわずか15試合で退団してしまう。

 突然指揮官が去り、空中分解の危機に陥ったチームを救ったのは、5月4日にコーチから新監督に就任した古葉竹識だった。

 南海コーチ時代に野村克也監督の下でチームづくりの基本を学んだ古葉監督は、“ルーツ遺産”の中から、取るべきものは取り、捨てるべきものは捨て、選手の個性と力を十分に発揮させる柔軟な姿勢でチームを活性化する。

 古葉監督就任後、チームは6勝3敗2分と上昇気流に乗り、5月17日に初の首位浮上。6月21日には、赤ヘルをかぶった球団のペットマーク「カープ坊や」も誕生した。

 チームは7月以降もV戦線にとどまり、前半戦を首位・阪神に1.5ゲーム差の3位で折り返す。7月19日のオールスター第1戦では、山本浩二、衣笠祥雄がともに2打席連続弾を放ち、全セの勝利の立役者に。新聞に「赤ヘル旋風」の見出しが躍った。

 8月以降も、阪神、中日と三つ巴の争いのなか、9月14日に首位を奪還すると、以後14試合で10勝2敗2分と猛スパートをかけ、ついにマジック「1」とした。

 そして、10月15日の巨人戦、1対0の9回2死一、二塁のチャンスに、ホプキンスが値千金の右越え3ラン。その裏、交通事故による重傷から復活し、8回途中からエース・外木場義郎をリリーフした金城基泰が、巨人の最後の攻撃をピシャリと抑える。

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