「海鮮処 さくら水産」東銀座店。ランチタイムは14時まで。会社員たちが次々と入店していた。夜は歌舞伎座帰りのお客も訪れるという。(撮影/古寺雄大、以下同じ)
「海鮮処 さくら水産」東銀座店。ランチタイムは14時まで。会社員たちが次々と入店していた。夜は歌舞伎座帰りのお客も訪れるという。(撮影/古寺雄大、以下同じ)
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「500円の日替わり定食を毎日食べていました。生卵は食べ放題、ごはんと味噌汁もおかわり自由。自分でごはんをよそう間におかずが届く。その早さも魅力的でした」(東京都在住の30代男性)

【写真】タルタルとの相性は絶妙!1150円の「“生”あじフライ定食」はこちら

 かつて500円のワンコイン定食で人気を博した「海鮮処 さくら水産」(運営:株式会社テラケン、代表取締役社長野田安秀)の店舗数が170店から11店へと激減している。さくら水産は主に関東圏を中心に展開する居酒屋チェーン。2000年代には、500円で日替わり定食がおなかいっぱい食べられると話題になり、昼時には会社員の行列ができた。

 昼だけでなく、夜も安価なメニューが豊富に並んでいた。大学生のときに毎日のように通っていたという前出の男性は、こう懐かしむ。

「思い出のチェーン店です。当時は“さくすい”という愛称で呼んでいました。夜は50円の『魚肉ソーセージ』や、80円の『まぐろあら煮』など、激安メニュー縛りで楽しみ、『鶏なんこつ』『たこわさ』『えいひれ』などの定番おつまみは、すべて“さくすい”で覚えました。しかもお通しはあったんですが断ることもでき、ドリンク1杯無料クーポンも使っていたので、客単価はかなり低かったはずです。それにもかかわらず、長時間居座って、今思うと申し訳なく感じます」

 
「“生”あじフライ定食」。本当は海鮮丼かお刺身定食を頼もうと思っていたが、店員に「あじフライがオススメですよ」と勧められ、注文。確かにタルタルソースとの相性は絶妙だった。
「“生”あじフライ定食」。本当は海鮮丼かお刺身定食を頼もうと思っていたが、店員に「あじフライがオススメですよ」と勧められ、注文。確かにタルタルソースとの相性は絶妙だった。

 そんな庶民の味方だったさくら水産は、15年に投資ファンドに買収され、19年には梅の花グループの子会社となった。ファンドが関与するようになってからは収益性が厳しく問われ、採算の取れない店舗は次々と閉店した。

最安値は1100円

 さらに、新型コロナウイルスの蔓延で休業や時短営業を余儀なくされ、その結果、21年には500円のランチ定食が終了した。

 現在も営業を続ける11店舗では、ランチ(新大阪東口店除く)の定食は継続されている。しかし、最安値は1100円(税込み、以下同)の「本日の焼き魚定食」「漁師の“まかない”漬け丼」「鶏の唐揚げ定食」。さらに、1150円の「“生”あじフライ定食」、1380円の「本日の特選海鮮丼」、そして1480円の「魚河岸お刺身5点盛り定食」と、かつての倍以上の価格となっている。

同じ日の夜に再び店を訪れると、店員に「昼はありがとうね」と声をかけられた。接客業の鏡なのか、それとも筆者の風貌が特殊すぎて忘れられなかったのか……多分、後者だ。
同じ日の夜に再び店を訪れると、店員に「昼はありがとうね」と声をかけられた。接客業の鏡なのか、それとも筆者の風貌が特殊すぎて忘れられなかったのか……多分、後者だ。
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