次の出番は、にゃん子と金魚。可愛い晴れ着だが、頭の上に白いヘビのオブジェが乗っている。
「私、漫才はパートなのよ。本業はモデル。家に帰れば180センチあるの。でも、ここに来るのに重いから、50センチ分、置いてきてるんだわ」
金魚の売り物は、ゴリラの真似だ。晴れ着でも何でも、鼻の下を伸ばし、両手をぶらぶらさせながら、高座を動き回る。すると、金魚ファンなのだろう、最前列の男性客がすかさずバナナを差し入れた。相方のにゃん子が憤慨する。
「金魚ちゃん、あんた今、仕事中よ!」
「うん、モグモグタイム(笑)」
「言っとくけどね、この後、雲助師匠よ。人間国宝の前にバナナ食べる? 師匠の東八郎が草葉の陰で泣いてるわ」
たちまちバナナを完食し、残った皮を晴着の袖に入れる金魚。「仕事ですからっ」と笑うばかりだ。
「ちりとてちん」の作法
仲入前の雲助は、バナナなど気にせず、マイペースで「粗忽の釘」を語りこむ。箒をかけるため、長屋の壁に打ち込んだ長い長い八寸の瓦釘。隣の家のどこに釘の先が出たかというと、阿弥陀様の股ぐらだったーー。オゲレツな表現をしても、不思議にいやらしく感じないのは人間国宝の威徳なのか。
休憩時間のトイレで、吉田食堂くんとばったり。関西で東京落語の会を開催し続けるという貴重な仕事をしている男だ。「昨年はいろいろお世話になって。今年もよろしく」と便器の横で、間抜けな新年の挨拶を交わした。
後半は、正月の寄席には欠かせない獅子舞で幕が開く。獅子の前が鏡味仙成、後ろは翁家勝丸。その他、太神楽の若手中堅が総出で獅子を操っている。千円札の祝儀を差し出す男性の頭を軽く噛み噛み。最後に獅子の口から「今年もよろしく 末広亭」の垂れ幕が出た。
橘之助の「浮世節」も正月の華やぎを彩っている。
「たくさんのお客様が、(客席に)満遍なく広がってもらって。我々の正月は20日までなの。でも外に出ると、世間はフツーなの。正月興行は顔見せで、全員出るから、一人6分。私のところで時間調整するからって、『1分で』と言われたこともあるのよ〜ん」
前座の柳家小きちを高座に呼び出し、小きちの太鼓で、ラップ風の曲を弾き語りする。テンポがどんどん早くなって、もう何を言ってるかわからない。ついていけない小きちの太鼓が不思議なリズムを叩き出していた。
トリのさん喬が高座に出るなり、絶妙なタイミングで「待ってました!」と声がかかる。
「思わず心の底から『ほんとかよ』といいたくなります(笑)」
豆腐が腐るような季節のネタを、正月に聞くのも面白い。
「ちりとてちんには、一つだけ作法があるんですよ。食う前に息を止めます」
しゃじ(スプーンとは言わない)は使わず、皿から直接、口に流し込んで悶絶する金さんの仕草がぴたりと決まって、汚いとか、気持ち悪そうなどという感じがしない。さすがは日本舞踊、藤間の名取だと感心した。
終演後、寄席の裏を通ると、通用口から前座のさく平が出てきた。「さくちゃん、(二ツ目)もう少しだね」「ええ、頑張ります」。6月に二ツ目昇進が決まっている。今が一番楽しい時期だろう。