円太郎の「化け物使い」。古典落語を何のけれんもなくストレートに聴かせる腕があるなと聴き入っていたら、いきなり変化球が混じってきた。
人使いの荒い隠居に暇をもらった杢助が、最後に一言、説教を垂れる。
「おめえさんは人の使い方を知らねえな。こういう時に必要なのは、優しさというか、気遣いというか、江戸ではどう言うかわからねえが、オラの国ではこれをホスピタリティという(場内爆笑)」
すまし顔の杢助がインテリに見えてきた。
気がつくと、桟敷の幼い姉妹が、若い母親に連れられて帰るところだ。末広亭のホスピタリティをわかってくれたのだろうか?
定番ギャグを客席に言われてしまって
紙切りの楽一は、名人・三代目正楽の愛弟子だが、雰囲気はかなり違う。いかにもやんちゃそうな正楽の弟子に対して、楽一は寡黙で俯きがち。「物静かな紙切り」なんて言われている。
「幼稚園に行くと、動物の注文ばかり出ます。『動物以外で何かご注文は?」と尋ねると……」
この後、園児が「バナナお願いします」と答えるのが定番のギャグなのだが、この日は先に客席から「バナナ!」と言われてしまい、楽一、思わず苦笑いだ。
「それで、老人ホームに行くと、今度は干支の注文ばかりです。干支以外に何かありませんかと聞くと……」
楽一はここで客席をジロリと見渡す。楽一の意外な「圧」に気圧されたか、先ほどの客が小さな声で「バナナ」。見事な切り返しである。

番組も中盤に差し掛かり、いよいよ三賢人の出番だ。まずは、権太楼が十八番の「代書屋」を聴かせてくれる。
「場内4割。このくらいがちょうどいいです。気が楽になるもの」
「履歴書ねえ、こないだまで家にあったんだけど、漬物にして食っちゃった」「あんたのとこは『転失気』か!」
普段はこれで大爆笑だが、今日の権太楼は声もテンションも低い。体調が悪いのだろうか。爆笑はないが、会場のあちこちから、噺の間、ずーっとくすくす笑いが聴こえていた。