「競技」という枠を飛び出して
昨夏、羽生はAERAのインタビューでこう語っている。
「自分はこれまでスケートをやってくる中で、そもそもそんなに本格的にバレエを習ったりしたことはなかったし、本格的にダンスを習ったりということもありませんでした。振り付けの先生の振りを真似している、写しているだけでここまでやってきているんですよね。だから基礎がないというか、一定の技術が存在していないというか、真似事にしか過ぎないと思うところがけっこうあります。ちょっとずつその分野の本物の方々の動きを見ながら、こういうふうにするべきなのかな、とか、こういうふうにしていくのかな、ということを学ぶようにはしていますね」(AERA特別編集『羽生結弦写真集 Gi』より)
競技という枠のある世界を飛び出して新たな世界に立ったとき、さまざまな表現の分野にいるプロフェッショナルの姿をより強く意識するようになった。その中で、まだ自分が得られていない表現の技術もたくさんあることを実感し、それを取り込んでいこうと努めた。それもまた、表現の進化を促す要素であった。
そして根幹は、次の言葉にある。
「自分がどんどんどんどん掘り下げていっているからこそ、より理想は高くなるし、より表現したいものの具体性がどんどん出てきている。どんどん自分の理想が具体化されていけばいくほど、そこに追いついていない繊細な体の動かし方を感じたり、細部の雑なところに気づいたりします。例えばほんとうに手の角度5センチぐらいだったり、体の向きだったり、顔の位置だったり目線だったり、それこそ呼吸の仕方だったり。見ていてもそんなにわからないかもしれないですけれど、そういう小さい小さい部分がこれまで積み重ねられてきていないこと、自分の実力のなさみたいなことはずっと感じています」(同上)
もとより自身の成長を志す思いは計り知れないほど強い。その原動力がプロとなって新たな世界を知る中でも働き続けてきた。それがさらなる進化をもたらしたことはこの3年に表れている。
プロとして4年目が始まる。でもそんな区切りにかかわらず、これからも表現者として理想を追い求めて進んでいくだろう。
(ライター・松原孝臣)
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