2025年7月19日にプロ転向4年目を迎えた羽生結弦。この間、数々のアイスショーに出演し、観る者の想像や期待を遥かに上回る演技をみせてきた。その「表現者としての進化」をひもといていきたい。
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2022年7月19日。この日、羽生結弦は記者会見を開き、競技生活に区切りをつけ、プロフィギュアスケーターとして続けていくことを表明した。
あれから3年、プロとして歩み、数々のアイスショーで、競技選手時代からのプログラム、新しいプログラム、さまざま演じてきた。その中で示したのは、表現者として進化を続ける姿だった。
競技時代から、曲の音をていねいにすくいあげ、一音一音を捉えた演技には定評があった。それが曲の世界観を捉えた表現を創り上げるもととなっていた。それはより繊細を極め、曲と一体となった演技とともに表現として提示するようになった。
新たな試みに込められたもの
一つひとつのプログラムにおける動きが洗練されるとともに、さまざまな試みもみられた。
例えば、“Yuzuru Hanyu ICE STORY 2nd”と銘打って行われたツアー公演「RE_PRAY」(23年11月~24年4月)で披露された新しいプログラムの一つに「鶏と蛇と豚」がある。このプログラムでは、長方形のリンク上に赤い光が線となって走り、まるでランウェイのような形が作られた。赤い線でくくられて制約が課せられた範囲の中で切れ味のよい動きをみせたが、空間づくりも合わせて、スケートにおける新たな表現といえた。
やはり新たなプログラムとして披露された「Megalovania」の前には、無音の中、エッジでリズミカルに氷の音を響き渡らせた。それもまた、一つの新たな演出であると同時に表現であった。
自身の動きだけにとどまらない表現への欲求がそれらにあり、そして表現への欲求は、自身の動きにも表れた。
“ICE STORY 3rd”となるツアー公演「Echoes of Life」(24年12月~25年2月)では、「ピアノコレクション」から「バラード1番」へとつながる十数分のパートがあった。
「ピアノのクラシックの連続のところからの『バラ1』では、今までやったことのない、一回も(バックステージには)はけないで、ずっとプログラムを演じ続けるみたいなことをやっています。(ピアニストの)清塚信也さんと一緒にクラシックのことも勉強し、振り付けをお願いしているジェフリー・バトルさんとも『こんなイメージで滑りたい』ということをほんとうに綿密に打ち合わせしながら作ったプログラムです」
と羽生が振り返る作品だ。
その「ピアノコレクション」では、30秒ほどの短い間隔を挟みつつ、5つのピアノ曲のもとで滑り続けた。
そこに織り込まれたのは、いくつものクラシックバレエの動きだった。ただの真似事にとどまらず、しかも氷上に移してみせた。