料理研究家のリュウジさん(撮影/写真映像部・松永卓也)
料理研究家のリュウジさん(撮影/写真映像部・松永卓也)
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 料理研究家のリュウジさんは、引きこもりを続けていた10代のころ、実家全焼の火事を経験しました。その後出会ったのが、料理だったと言います。初めての料理で彼が気づいたこととは。料理哲学を語りつくした最新刊『孤独の台所』(朝日新聞出版)より、一部を抜粋してお届けします。

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 人生を立て直す過程で出会ったのが料理です。

 火事のあともしばらくは引きこもりだったけど、ゲームはやめた。新しいパソコンもゲーム機も買ってもらってはいたんです。でも、昔みたいにドはまりすることはまったくなかった。パソコンも主な使い道はインターネットで調べもの、というように変わっていきました。

 毎日何もせず母親に食わせてもらっているのが悪い気がしていたのですが、あるとき、何か料理でも作ってみたら母親が楽になるのではと思ったんですね。

 そのとき母親がちょっと体調を崩しがちで、食事は自炊ではなく弁当や外食が増えていました。経済的にもあまりよくないし、かといって母親が毎日ご飯を作るのも大変。一食くらい俺が作ったら力になれるかもしれない――。

 そこで初めて作ったのが、鶏むね肉のチキンステーキでした。

 確か、どこかのイタリアンレストランのシェフが、ブログで公開していたレシピを読んだのがきっかけでした。

 鶏むね肉はボリュームの割に安いけど、火を通しすぎてしまうとパサつくという弱点もあります。もも肉に比べて脂肪分も少なく、良く言えばあっさりしているけど、悪く言えば硬くなりやすくて味気ない。

 こうした弱点をカバーするために、レシピでは最後にバターをまわしかけているんです。フランス料理やイタリア料理でよく見られる、油脂をまわしかけながら焼く「アロゼ」という技法です。レシピを読んで料理をするのは初めてでしたが、知らずに凝った技法を学んでいたんですね。

 この料理は今、初心者でも失敗しないようにアレンジして、「はじまりのチキンステーキ」としてレシピを公開しています。

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