
高校中退、引きこもりの日々から突然の実家全焼……壮絶な経験をした10代のリュウジさんは、当時の経験を今でも時々、振り返ると言います。自身の半生と料理哲学を語りつくした最新刊『孤独の台所』(朝日新聞出版)より、一部を抜粋してお届けします。
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火事に見舞われてから、祖父母とは少し離れた場所で暮らすようになりました。基本は母親と二人暮らしです。
あれだけハマっていたゲームは、火事を境にスパッとやめることができました。パソコンもゲーム機も燃えてしまったし、セーブデータも何も残っていません。
そんな現実を目の当たりにした瞬間、なんだかゲームに人生を賭けてきた魂というか情熱が、すっと俺のなかから抜けてしまったのです。
ゲームは今でもやりますが、すべてを投げ打ってやるようなこともなければ、あの世界に入りたいと思うほど熱中もしていない。
結果的にですが、この火事が俺を現実の世界に引き戻してくれたんです。
時々、祖父母や母親と、「きっと、天国にいるひいおばあちゃんが俺を更生させるために火事を起こしたんだろう」という話をします。
ひいおばあちゃんは生前、「私が買ったパソコンでリュウジが引きこもりになってしまったんじゃないか」と相当気にしていました。
パソコンを買ったのは勉強に使ってほしいという思いからだったのに、俺はゲームにしか使っていなかった。買った身としては、本来願ったような使い方をまったくしていないのだから気にしますよね。
コンセントから出火したのは単なる偶然ですが、火事が不甲斐ない生活から立ち直るきっかけになったのは間違いないことです。
だから、なんの根拠もないけど、そういう話にしておきたいなと家族は願っているし、俺も受け入れています。
事実として、本当にこの火事がなかったら、俺はきっとこの仕事を始めることもなかったのだから。
(リュウジ・著『孤独の台所』から一部を抜粋)
